彩度beige
拾い集めた芳江さんの作品のガラスの破片は小さな箱に。このまま本人に会うまで保管しておく。

美波さんたちが使っていた照明の破片は袋に入れて、清掃員さんに処分を頼んだ。

よくよく注意しながら丁寧にガラス片を拾ったつもりだけれど、顔なじみの清掃員・・・安斎さんに最後のチェックをお願いすると、想像していなかった場所にも細かい破片が飛んでいたのが見つかった。

安斎さんは残りの破片を回収し、ついでに周囲を掃除する。

「・・・うん。これでもう大丈夫でしょう。ほとんど片付いていたから助かったわ。ありがとうね、水谷さん」

「いえ、こちらこそ。お手数おかけいたしました・・・」

ひとまずこれでひと安心。お客様に危険はないだろう。

ふうっと安堵の息を漏らすと、安斎さんは私の顔を覗き込む。

「水谷さん、だいぶ疲れているわね。大丈夫?」

「え?あ・・・、そうですか・・・?」

自覚はあまりなかったけれど、このところ忙しく動いていたし、今日は敦也と美波さんに会ってしまったし、芳江さんの作品が壊れてしまうという悲しい出来事まであった。

気がつけば、心と身体、両方に負担がかかっていたのかもしれない。

「仕事はもう終わったんでしょう?休憩室でひと休みしてから帰ったら?ちょうどね、いただいたばかりの美味しいお菓子も置いてあるのよ」

安斎さんがにこりと微笑んだ。

優しい笑顔。

多分、私の母と同じくらいの年齢だろう。

穏やかな彼女の雰囲気は、いつも私に安心感を与えてくれる。

「ありがとうございます。ぜひ・・・と言いたいところなんですが、これから社長室に行く用事があるので・・・」

「社長室?社長が水谷さんを部屋に呼んだの・・・?」

安斎さんが、丸い瞳をさらにくるりと丸くした。

その様子から、やはり珍しいことなのだろうと思ったし、軽々しく言うべきじゃなかったかも、と思った。

私は「Vulpecula」の社員でもないのだしーーー、余計に珍しく感じることなのだと思う。

「・・・ふふ。そっか・・・。なるほど。それでそのままだったのね」

安斎さんが、どこか納得したように、ふふっと小さく微笑んだ。

その表情はとても柔らかく、温かみのあるものだった。

「・・・あの・・・?」

「ああ、ううん。ごめんごめん。それなら早く行かないといけないわね。社長、きっと水谷さんが来るのを待っていると思うから」

「・・・?、はい・・・」

なにやら引っかかるものを感じつつ、だけど、嫌な感じはしなくって。

私は頭に「?」をいくつか浮かべながら、安斎さんに頭を下げてその場を去った。


(安斎さん、『それでそのままだったのね』って呟いていたけれど・・・)


「それでそのままだった」とは、何のことを言っているんだろうか。

そもそも社長室に呼ばれた意味は。

安斎さんは、なにを知っているんだろうか。







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