彩度beige
フロントにいた女性スタッフに声をかけ、社長室まで案内してもらう。

客室棟から渡り廊下のような場所を経て、訪れた景色のいい10階フロア。

案内された社長室は、無機質な廊下の先、一番奥の部屋だった。外からそこを見る限り、ごくごく普通の、会議室のような雰囲気だ。

「・・・では、こちらが社長室になりますので。私はここで失礼しますね」

「はい。ありがとうございました」


(さて・・・)


一葉くんは、社長室で私にどんな話があるんだろうか。

ここまで案内してくれた女性スタッフによると、「場所は知っていますけど・・・、社長室の中は一度も見たことないですね。多分、誰も見たことないんじゃないかなあ」と言っていた。

「企画がうまくいっているから、仕事継続のお話でしょうか」なんて彼女は言っていたけれど、その件で、わざわざ社長室に呼んだりするのだろうか・・・。

ドキドキしながら、私は扉をノックする。

「・・・はい。どうぞ」

中から声が聞こえたために、「失礼します」と言って私は扉をそっと開いた。

と、目の前に衝立(ついたて)のような物が現れて、私はすぐに立ち止まる。

「・・・あ、ごめん。いきなりそれでびっくりするよな」

言いながら、一葉くんが衝立の奥から現れた。

そして、やや緊張気味に「どうぞ」と言って私を衝立の先へと促した。


(・・・、わ・・・)


そこは、私がイメージする社長室とはだいぶ印象が違う場所だった。

想像よりも、狭い部屋。

壁に向かって置かれた机。その周囲には、いくつかのパソコンのモニターや電子機器。

反対側には、漫画や雑誌、小説、画集などがびっしり詰まった本棚が壁一面に。

よく見ると、経営に関する本や、ホテル関連の本も多く並んでいる。

窓際に置かれた雑貨はシンプルだけどかわいくて、思わず私の目に留まる。

その他周囲を見渡すと、フィギアやイラストも所々に飾られていた。

多分、全て一葉くんが選んでここに置いたもの。

「・・・社長室とは思えないよな」

一葉くんが苦笑しながら呟いた。

私は素直に「うん」と頷く。

「社長室って、もっとこう・・・、広くて真ん中に応接セットがドーンて置いてあるような、重厚で・・・、入りにくい雰囲気の部屋を想像してたから・・・。ドラマの見すぎかもしれないけれど」

ここは、そういった雰囲気では全くなくて。

それこそ、一葉くんのプライベート・・・、自宅の部屋であるような。

「わかるよ。父親・・・、会長の部屋は今もそんな感じだよ。ここは前社長の兄さんが使ってた部屋なんだけど・・・、あまりにも何もなくてオレには使いにくかったから、使いやすいように変えさせてもらったんだ。ほんとに・・・、机とノートパソコンしか置いてない、シンプルすぎる部屋だったから」

「・・・そうなんだ・・・」
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