彩度beige
「・・・ついさっき、キャンセルで急遽空きが出たんだ。折角だし、水谷さんが泊まってくれたらと思って」

戸惑っている私に対し、一葉くんは理由を説明してくれた。

けれど・・・、あまりにも突然すぎるお話で。

「・・・、あの、でも・・・、どうして私?『Vulpecula』のスイートなんて、泊まってみたい社員さんとか、お客さんだって沢山いるんじゃ」

「・・・そうだな。けど、オレが社員の誰かを選んで声をかけるっていうのは難しい部分があるし、今から予約を入れてくださるお客様もいないと思う。それに・・・、水谷さん、今日は色々あっただろ。スイートならゆっくりできると思うし、ついでに、取材の一環として泊まった感想も聞いてみたいし」

「・・・・・・」


(・・・、『取材』・・・、そのひと言で、今も、今までも、なんでもアリになってしまったところがあるけれど・・・)


もちろん「Vulpecula」のスイートなんて、憧れで、一度は泊まってみたいと思ってる。

だけど、あまりにも突然すぎる話だし、本当に泊まっていいのかなって、ドキドキすることでもあるし・・・。

「取材」という一葉くんのひと言にだいぶ慣れてはきたけれど、それでも、「わかった!」と、簡単に頷けることではなかった。

戸惑い続ける私に向けて、一葉くんは「それなら」と、ひと呼吸入れるような声で言う。

「とりあえず、部屋を見るだけ見てくれる?」

「・・・」

「折角だから、雰囲気だけでも見てほしい。泊まるかどうかは、それから決めてもらえたら」

「・・・・・・」


(・・・それなら・・・)


断る理由はないだろう。

私は少し考えてから、「わかりました」と頷いた。

とりあえず・・・、見るだけならば。

泊まらなくてもスイートルームを実際この目で見てみたいって、興味はやっぱりあったから。

「・・・よかった。じゃあ、早速これから案内します」

一葉くんはほっとしたように微笑んで、ルームキーをジャケットの内側にしまった。










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