彩度beige
「どうぞ」

一葉くんがドアを開けてくれ、私はぺこりと会釈した。

そして、中へと踏み込むとーーー。

「!」


(わあ・・・!!)


中へ入った瞬間に、全身の感覚が一気に上がった。

肌がぶわっと波打つ感覚で、頬が熱くなっていく。

ドキドキと、ワクワクと。胸が大きく高鳴った。

まるで、夢の世界に来たような。

物語の中、自分が主人公になってその世界に入っていくようなーーー・・・。

「・・・すごい、素敵・・・」

目の前に広がる英国風の高貴な空間。

ヴィクトリア調というのだろうか。

歴史を感じる、時間をかけて丁寧に手入れをされた、とても美しい部屋だと思った。

高揚しながらキョロキョロと部屋を見ていると、「こちらへ」と一葉くんに促され、そのまま足を進めていった。

途中には、洗面所などがあるのだろうか、いくつかのドアを横目に見ながら、パーティでもできそうな広い部屋へと辿り着く。

「ここがリビングルームです。ウェルカムスイーツも用意したのでよかったら」

「い、いえ。まだ、泊まるかどうかもわからないし・・・」

テーブルの上に用意されている、高価そうな箱に入ったチョコレート。勧められたけど、当然のように遠慮する。

ーーーそう。だって、まだ泊まるかもわからないのだし、やっぱり、本当に泊まっていいのかわからない。

・・・いや、泊まっていいのだろうけど・・・、ここで即座に「はい!」って言えない私だから、セレブな環境を用意されてもセレブにはなれなかったのだ。

「そっか。じゃあ、泊まらない場合はおみやげにでもしてもらえたら」

言いながら、一葉くんは静かに笑って、閉まっていたリビングルームのカーテンを一気に開けた。

途端、視界が急に広くなる。


(!)


「・・・わ・・・!!」

広い空。

壁一面をくりぬいたような大きな大きなガラス窓。その向こうには、ビルや商業施設やマンションが。

公園や、学校も。よく見れば、道路を走る車の波や、看板や、並木道の樹木も目に入る。

ーーーやっぱり、ここは都会の真ん中だ。

全てがあって、けれど、それは現実のものではないようで。まるで、ジオラマの世界に入ったような。そんな感覚。

夕暮れ時のこの時間、遠くに広がっている雲と、オレンジ色の夕陽がとても綺麗だ。

この風景が、どこまでも続いているような感覚がする。

「綺麗・・・」

たまらず窓に近寄って、外の景色をじっと見る。

と、一葉くんが私の右隣に来ると、囁くような声で言う。

「夜はもっと綺麗に見えるよ」

「・・・そうだよね・・・」

「泊まったらそれも見れるけど」

「・・・・・・」

ぐっと詰まった私に向けて、一葉くんが見透かすように微笑んだ。

彼は、私の「好き」のポイントを突いてくる。

じりじりと、じわじわと。

それから、寝室にバスルームに洗面所・・・と、全ての部屋を案内されて、私はもう、たまらない気持ちになっていた。

この部屋に泊まってみたい、どうしようもないこの気持ち。

こんなにじっくり部屋の中を見せてもらって・・・、もう、ここに宿泊する気分。
< 136 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop