彩度beige
「・・・どうですか。泊まっていってくれるかな」

全ての部屋を見て回り、リビングルームに戻ってくると、一葉くんに問いかけられた。

きっともう、彼も答えはわかっていると思うけど・・・。

「・・・うん。泊まりたい・・・、です」

素直な気持ちを伝えると、一葉くんはほっとしたように息を吐き、とても嬉しそうな顔をした。

その表情に、ちょっとドキッとしてしまう。

私がここに泊まるのが、そんなに嬉しいことなのだろうか・・・。

「・・・よかった。じゃあ、宿泊に必要なものは用意するから。足りないものがあったら言ってもらえば」

「ありがとう・・・。でも大丈夫だと思う。アメニティも十分すぎるくらいに揃っているし、服も・・・、スーツだから、今日明日と同じでも、そんなに変わらない気がするし」

突然のお泊りになるわけだから、インナーも一日くらい同じでいいだろう。

今が真夏じゃなくてよかったな、と思う。

「ああ・・・、着替えというか、明日の服は一応用意してるんだ。智津さんに頼んでおいたから」

「え・・・?」

智津さんに??一葉くんが私の服を?

予想外の言葉が耳に届いて、私は瞳を丸くする。

頼んだって、それってどういう・・・。

「まだ手元にはないんだけど、今夜中には届くようにはしてるから。明日の朝ここに届けに来るよ」

「え?や、あの・・・」

「遅くなってもよければ夜中にでも届けに来るけど」

「う、ううん。明日で全然いいんだけれども・・・」

私の頭は混乱していた。

今日、私がここに泊まるのは、ついさっき提案されたこと。

それなのに、智津さんに服を頼んでた?

雑貨屋を営んでいる智津さんだけど、そんなに急に私の服を用意して、配送の手配ができるのだろうか。

戸惑ったまま一葉くんを見上げると、ドアのベルがリーンと鳴った。

「・・・ああ、来たかな」

「失礼」と言って部屋の入り口の方へと向かっていって、少ししてから戻ってきた時、一葉くんは、淡いブルー系の大きな花束を右手に抱えていた。

そしてそれを、「はい」と私に差し出した。

「誕生日おめでとう」

「・・・・・・」


(え!?)


私は瞳を瞬きながら、差し出された花束を信じられない気持ちで見つめてしまう。

驚いて、びっくりして(一緒のことだ)、とにかく・・・・・・、とにかくびっくりしたから、それ以上の行動をとることができなかったのだ。

「・・・、あの・・・・・・」

「本当は、違う計画を立ててたんだけど。予定変更。でも、お祝いはさせてほしいと思ってて」

「受け取ってくれる?」と瞳を覗かれて、私はドキリと胸を震わせた。

この状況に気持ちが追いつかず、戸惑いながらも、花束をゆっくり受け取った。

「・・・ありがとう・・・」

花束は、私の顔が隠れそうなほどの大きさだった。腕に程よい重み。

鼻先に、甘い香りがふわりと漂う。

変わらずに、驚きや戸惑いが大きいけれど、それ以上に、嬉しい気持ちが込み上げてきて、胸がじわじわ熱くなる。
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