彩度beige
(・・・そっか・・・。そういえば、私、今日、誕生日だったんだっけ・・・)


忙しさで、すっかり忘れてしまっていたけれど。

改めて、一葉くんの「おめでとう」と花束を嬉しく思う。

「・・・ごめん。強引にこういう流れを作って。けど、普通に誘ったら、断られる気がしてたから」

一葉くんの言葉を聞いて、私は思わず彼を見た。

ーーーそうだ。私は、一葉くんと少しずつ距離を取っていた。

未来のために、それが正解だろうと思っていたから。

一葉くんはそれをわかった上で、こんなふうに誘ってくれた・・・。

「・・・・・・」

申し訳なさと嬉しさと。

同時に、こんなふうに花束を受け取ってよかっただろうか、やっぱりここは引くべきかもしれないっていう思いも湧いた。

けれど。

どうしようもなく嬉しくて。一葉くんの気持ちがとても嬉しかったから、私はただ、花束を宝物のように抱きしめた。

「・・・疲れてると思うけど、夕食を一緒にしても平気かな。無理にとは言わないけど」

「う、うん!大丈夫です」

気持ちは一瞬揺れたけど、私はすぐに返事した。

ーーー今日だけは。今だけは。

一葉くんと距離を取るということは、未来ではきっと正解なのだと思うけど、やっぱり・・・、今、彼の気持ちが嬉しくて、このまま私も一緒にいたいと思ってしまって。その気持ちに、どうしても逆らうことができなかった。

「・・・よかった。じゃあ、少し待ってて」

ほっとしたように微笑むと、一葉くんはどこかへ電話をかけた。

そしてしばらくすると、またもや部屋のベルがリーンと鳴った。

「失礼いたします」

入り口の方から声がして、一葉くんが応対をしに向かって行くと、男性スタッフが部屋の中に白いワゴン車を運び込む。

男性スタッフは、「こちらにご用意してよろしいですか?」と一葉くんに聞きながら、ワゴンからお皿やカトラリーを取り出して、テキパキと準備を整えていく。

あっという間に、食事の準備が完了だ。

「・・・では、後はお任せするということで・・・、よろしかったでしょうか」

「はい、大丈夫です。どうもありがとうございました」

一葉くんが答えると、男性スタッフは一礼してから部屋を去る。

ここまでまさにプロの技。

流れるような作業にぼうっと見入っていた私に向けて、一葉くんは微笑んだ。

「見惚れるよな。すごい速さできれいだし」

「うん。思わず見入ってしまった・・・」

「わかる」と頷いてから、一葉くんは「どうぞこちらに」と私を促した。

食事の準備が整ったテーブルの前。彼が椅子を引いてくれ、私は戸惑いながらも腰を下ろした。

「・・・では」

一葉くんは冷やされていたワインボトルを手に取ると、2つ分のグラスにそれを注いだ。

淡い金色をした液体に、シュワシュワと、小さな泡が立ち上る。

「どうぞ」と促され、私はコクリと頷いてからワイングラスを手に持った。

途端、ふわっと、甘い香りが鼻先に。

口に含むと、果実のような甘さと泡の刺激が広がった。

「・・・、おいしい・・・」

「でしょ。水谷さんは好きだと思って」

言いながら、一葉くんが満足そうに微笑んだ。

本当に、一葉くんは私の好みを全て知っているみたい。

このスイートルームの雰囲気も。花束のお花や色も。

好きなワインの味や香りさえ、彼にはわかっているらしい。
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