彩度beige
「はい、どうぞ」

「ありがとう・・・」

いい香り。苦みの程度もちょうどいい。

カップやソーサーも、とても素敵で気分が上がる。

ーーーこの場所で、一葉くんが淹れてくれたコーヒーをこうして朝から飲むなんて。

今日の朝の贅沢が、またひとつ増えた感覚がした。

「・・・、ここ、朝の景色もすごくきれいなんだね」

しばらくゆっくりとしてひと息つくと、私はコーヒーをテーブルに置き、思い出すように窓の方へと歩いてく。

まだ、ほんの少し前のこと。

朝起きて、カーテンを開け、目に入った景色の感動がまた蘇る。

「夜は夜で夜景が綺麗だったけど。朝はまた、眩しい感じで素敵だね」

一葉くんは頷くように微笑むと、立ち上がり、私の隣に歩み寄る。

そのまま、2人で窓の外を眺める。

同じ景色。今は、本当に同じ景色を見てる。

「・・・一葉くんは、昨日はホテルに泊まったの?」

「ああ、うん。社長室でね。一応、奥に仮眠できる場所もあるから」

「そっか・・・。じゃあ、夜は同じ景色を見ていたのかな」

「うん。ここの方が見晴らしいいけど・・・、方角もだいたい同じだし、見えてるものはほぼ同じだろうな」

「・・・そっか・・・」

昨日の夜景を思い出す。

綺麗だったな。キラキラとした都会の景色。

一葉くんが帰ってしまって、とても寂しかったし切なかった。

だけど今、一葉くんと同じ景色を見てる。同じ場所で、一緒に時間を過ごして。

ーーーよかった。これで最後になるけれど。

最後にこうして一緒にいられて。

「・・・ありがとう」

私の口から、自然と言葉が零(こぼ)れ出た。

今が夜じゃなくてよかった。これから口にすることを、夜景を背にしていたならば、なんとなく、私は泣いてしまいそうに思うから。

「・・・スイートルーム、本当に素敵で楽しかった。お風呂もすごく広いんだね。昨日の夜は、結構長風呂しちゃったよ」

へへ、と、私が笑う。

一葉くんは何かを感じているのだろうか、うん、と短く頷いた。

「一葉くんが帰った後、やっぱり寂しくなったんだけど、お風呂に入ったら少し紛れて。入浴剤も色々用意してくれていたから、選ぶのもすごく楽しくて」

早く、誕生日の件を断ろう。そして、その理由を上手に、いい感じで伝えよう。

そう思っているのは間違いないのに、余計な感想をベラベラと止まらず話してしまう。

「パジャマもかわいくて肌触り良くて。お布団もふかふかで気持ちよかったし、本当に、贅沢な体験をさせてもらったなあって思って」

「・・・」

一葉くんは、ただ、静かに聞いている。

私は、昨日だけのことじゃなく、これまでのことを思い出す。

数えきれないほどの感謝。全部は伝えられないけれど。ほんの少しだけでも、一葉くんに伝えたい。

「・・・本当に・・・、どうもありがとう。一葉くん、色々な場所に連れて行ってくれたり、ごちそうも沢山してくれて、その上仕事も誘ってくれて・・・。本当にすごく楽しかった!今日は朝起きた時、外の景色がすごくきれいでね、一葉くんと一緒に見れたらいいなって、そう思っていたんだけれど、そうしたら、本当にこうして一緒に見れてーーー・・・」

「・・・っ」
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