彩度beige
ーーー思い出した。
ホームパーティを開いた際に、前髪でほぼ顔が見えない上に、黒マスクをしていた男性が参加していたことが確かにあった。
敦也が呼びかけるパーティの出席者には珍しいタイプの男性なので、その存在はよく覚えてる。
「あの時の男の人が・・・、一葉くん?」
「・・・うん。『Vulpecula』で働きだして、少し経ったくらいだったかな・・・。パーティなんて苦手だし、何度も断ったんだけど、松澤さんに強く誘われて仕方なく。けど、松澤さんは顔が広いし力があるし、みんな少しでも近づきたいと思うんだろうな。行った途端に色んな人に囲まれて、オレは結局取り残されて、一人になったっていう」
ーーー帰りたい。けれど、「初めて訪れた、初対面の人の家」で、帰るにしても礼儀がよくわからない。
周りの人は、一葉くんに対して「松澤さんが連れてきたっぽい」という程度の認識はあったようだけど、黒マスクで無口な一葉くんは近寄りがたかったのだろう、皆、避けるようにしていたそうだ。
「こっちから話しかければいいんだろうけど、元々そういうことは苦手だし、あの時は、今以上にああいう場に慣れてなかったから勇気もなくて。けど、さすがに居たたまれなくなってきて、どうするかなって思ってた時、水谷さんが、声をかけに来てくれた」
『よかったら、なにか召し上がってください』
「・・・綺麗な人に急に声をかけられて、ドキッとしたし驚いて。相槌打ったもののそのまま動けないでいたら、水谷さん、好き嫌いを確認した上で、何種類か料理をのせた皿を持ってきてくれて」
口に運ぶと、それはどれも美味しくて。思わず『美味しい』と言葉を漏らすと、その時の私は、本当に嬉しそうな顔をしたという。
「確認したら、全部水谷さんが作ったって言うから驚いた。『みんな料理にはあまり興味がないから、そう言ってくれてすごく嬉しい』って言って・・・、その時の顔がかわいくて、今でもよく覚えてる」
ドキリとしながら、私は当時を思い出す。
あの頃ーーー、敦也が開くパーティは、仕事の延長線上のようなものだったので、敦也はもちろん、参加者たちは、この場でどう人脈を広げていくか、自分やパートナーの能力をどうアピールするか・・・、駆け引きのようなことを目的としている様子に見えた。
だから、料理に興味がないのは仕方がないとも思ったけれどーーー。
作り手としては、やっぱり、料理も楽しんでもらいたい。
元々好きなことではあるけれど、毎回、大人数のために料理を作るというのは大変で。かといって、手を抜くことを敦也は決して許さない。
帰り際、「おいしかった」と伝えてくれる人もいたけれど、敦也の妻である私への社交辞令のようにも感じてしまい、素直に喜ぶことができないでいた。
けれどあの時の男性・・・一葉くんが発した「美味しい」は、本心だと素直に感じることができ、私はとても嬉しかったのだ。
ホームパーティを開いた際に、前髪でほぼ顔が見えない上に、黒マスクをしていた男性が参加していたことが確かにあった。
敦也が呼びかけるパーティの出席者には珍しいタイプの男性なので、その存在はよく覚えてる。
「あの時の男の人が・・・、一葉くん?」
「・・・うん。『Vulpecula』で働きだして、少し経ったくらいだったかな・・・。パーティなんて苦手だし、何度も断ったんだけど、松澤さんに強く誘われて仕方なく。けど、松澤さんは顔が広いし力があるし、みんな少しでも近づきたいと思うんだろうな。行った途端に色んな人に囲まれて、オレは結局取り残されて、一人になったっていう」
ーーー帰りたい。けれど、「初めて訪れた、初対面の人の家」で、帰るにしても礼儀がよくわからない。
周りの人は、一葉くんに対して「松澤さんが連れてきたっぽい」という程度の認識はあったようだけど、黒マスクで無口な一葉くんは近寄りがたかったのだろう、皆、避けるようにしていたそうだ。
「こっちから話しかければいいんだろうけど、元々そういうことは苦手だし、あの時は、今以上にああいう場に慣れてなかったから勇気もなくて。けど、さすがに居たたまれなくなってきて、どうするかなって思ってた時、水谷さんが、声をかけに来てくれた」
『よかったら、なにか召し上がってください』
「・・・綺麗な人に急に声をかけられて、ドキッとしたし驚いて。相槌打ったもののそのまま動けないでいたら、水谷さん、好き嫌いを確認した上で、何種類か料理をのせた皿を持ってきてくれて」
口に運ぶと、それはどれも美味しくて。思わず『美味しい』と言葉を漏らすと、その時の私は、本当に嬉しそうな顔をしたという。
「確認したら、全部水谷さんが作ったって言うから驚いた。『みんな料理にはあまり興味がないから、そう言ってくれてすごく嬉しい』って言って・・・、その時の顔がかわいくて、今でもよく覚えてる」
ドキリとしながら、私は当時を思い出す。
あの頃ーーー、敦也が開くパーティは、仕事の延長線上のようなものだったので、敦也はもちろん、参加者たちは、この場でどう人脈を広げていくか、自分やパートナーの能力をどうアピールするか・・・、駆け引きのようなことを目的としている様子に見えた。
だから、料理に興味がないのは仕方がないとも思ったけれどーーー。
作り手としては、やっぱり、料理も楽しんでもらいたい。
元々好きなことではあるけれど、毎回、大人数のために料理を作るというのは大変で。かといって、手を抜くことを敦也は決して許さない。
帰り際、「おいしかった」と伝えてくれる人もいたけれど、敦也の妻である私への社交辞令のようにも感じてしまい、素直に喜ぶことができないでいた。
けれどあの時の男性・・・一葉くんが発した「美味しい」は、本心だと素直に感じることができ、私はとても嬉しかったのだ。