彩度beige
「水谷さんのことは、一目惚れに近かったかな。でも、既婚者っていうのもわかってたから、ほぼ同時に失恋をしたわけだけど・・・。旦那さんが、水谷さんをあまり大切にしてないように見えて気になった。けど、初対面でどうこう言える立場じゃないし、オレにはそう見えてるっていうだけで、普段の関係なんてわからないよなとか考えて」

「無駄だ」「気にするな」「諦めろ」と言い聞かせ、私のことはそのうち忘れるだろう、忘れようと思っていたそうだ。

「・・・けど、どうしても忘れられなくて。そうしたらあの日再会して・・・。ありきたりだけど、運命だと思った」

「運命」というひと言が、耳から胸の奥にまで、一気に深く染み込んだ。

たったひと言。一葉くんから言われると、「そうかもしれない」と、魔法をかけられたような感覚になる。

「・・・なんて、都合よく考えたんだけど。何もしないでどうにかなるほど運命が甘くないのはわかってるから。このチャンスを絶対に逃すもんかと思って水谷さんを追いかけて・・・、咄嗟に、『物語を書かせてほしい』っていう提案をさせてもらったんだ」

そこからは、「取材」を口実にして、私と距離を縮めていったこと。

「騙してごめん」と言う彼に、私は首を横に振る。

「騙されたなんて思ってないよ。楽しかったし、私は・・・、本当に感謝してるんだ」

自分一人では経験できなかったこと、感じることができなかったこと。様々な経験を私は沢山させてもらった。

与えてくれた全てのものが、「私と距離を縮めるため」だけのツールだったとも思えない。

誘われていつも嬉しかったし、一葉くんはいつだって、私が望んでいるものを、考えて、差し出してくれていたように思うから。

「・・・それに、物語は本当に書いてくれているんでしょ?」

「ああ、それはもちろん・・・。一応、出来上がってるよ」

「わ、ほんと!?読みたい・・・っ!」

ずっと楽しみにしていた物語。

前のめりでぱあっと顔を明るくすると、一葉くんはふっと笑った。

「・・・じゃあ、今度。その前に、水谷さんの気持ちをちゃんと聞かせてほしいかな」

「!」

「好きになってくれてる気はしてたけど・・・、オレから離れようとしたのはなんで?」

「・・・・・・」

一瞬で、気持ちが内に向いていく。

多分、私は逃れられない。

一葉くんを好きな感情からも。それが伝わっているっていうことからも。

それならもうーーー、仕方がないかもしれない。元々嫌われる覚悟でいたし、今の気持ちを正直に、全て話そうと思った。

「・・・私は、離婚を経験してるから。そんなこと・・・って、思われるかもしれないけれど、私には、やっぱり軽いことではなくて」

「うん」

「・・・元夫も経済力がある人だったから、どうしても、一葉くんと重ねてしまうところがあって」

私は絶対、失礼なことを言っている。

経済力で重ねて見られるなんて、男性は特に嫌なことだと思う。

だけど、彼から離れようとした理由を話すなら、ここを避けては通れない。
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