彩度beige
それから一週間が経った頃。

「Vulpecula」での仕事を終えて帰り支度を整えていると、一葉くんから「会長室に一緒に来てほしい」と声をかけられた。

突然のことに、私は驚き戸惑った。

「・・・会長室って・・・、当然だけど、『Vulpecula』の会長がいる部屋だよね?」

「うん。まあ、会長が・・・っていうよりも、父親が、息子の彼女と話したいって感じみたいだけど」


(・・・息子の彼女と・・・)


聞いた途端、緊張感が身体に走る。

「・・・でも、付き合いはじめてまだ一週間だよ?その状態で、一葉くんのお父さんに会うなんて・・・」

あの日ーーー付き合うことになった後、一葉くんは小説家としての仕事も忙しくなったため、デートはおろか、ほとんど話もできてない。

結婚前提で、と、お付き合いをはじめたものの、私たちの関係は、ほぼ今まで通りで変わらない。それなのに・・・、彼のお父さんに会うなんて。


(しかも、『Vulpecula』の会長だもの。緊張しないわけないよ・・・)


「・・・というか、会長はもう私たちのことを知ってるの?」

「・・・それが・・・、オレが好きな女性として、付き合う前から水谷さんのことは知っていたらしい。水谷さんが好きなんて、誰にも言ってなかったんだけど」

「!?」

「水谷さんの誕生日にはスタッフに色々お願いしたし、それでいろんな人に気づかれるっていうのは承知でやってたんだけど・・・、父親は、それよりもずいぶん前から知ってたみたいで」

「謎すぎる・・・」と言いながら、一葉くんは銀色の髪をくしゃりと掻いた。

その顔は、少しだけ赤くなっている。

知らぬ間に、父親に好きな相手を把握されていた・・・なんてことがわかったら、私も赤面すると思った。

「・・・ごめん。本当に急で申し訳ないんだけど・・・。たまたま空き時間ができたらしくて、どうしても水谷さんに会っておきたいみたいなんだ」

「うん・・・。ご挨拶はするつもりだけれど、突然すぎて心の準備ができていないというか、やっぱり不安があるっていうか・・・」

あの日、一葉くんは「家族や親戚のことは問題ない」「みんな水谷さんのことが好きだと思う」、なんて言ってくれてはいたけれど、それについても詳しい話は聞けてない。

それに、「みんな」というのは本当に身近にいる数人だけで、その他大勢は全く違う意見だったーーーなんていう状況は、わりとよくある話じゃないかと思うから。

「まあ、逆の立場だったらオレも絶対不安になるだろうけど・・・。父親は仕事以外では温和だし、なんというか・・・、やたらと楽しみにしてたんだよな。だから、心配しなくても大丈夫だと思う」

「・・・楽しみ・・・」

それはそれで、ちょっと不安になってくる。

ある程度、噂で私のことを聞いているかもしれないけれど・・・、「うちの息子の彼女なら」と、妙な期待を抱かれていたらどうしよう。







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