彩度beige
会長室は、以前聞いていた通り、まさに、という雰囲気で、扉の外からドラマのような重厚感が漂っていた。

外からでもこんな感じなのに・・・と、中に入るのが怖くなる。


(・・・うう、やっぱり、日を改めてもらいたい・・・)


そうしたら、もう少し心の準備が整うし、もう少しいいスーツを買って着てくるし、ヘアもメイクも好感度の高い感じを研究してから来れるのに。

・・・なんてことをどうしても考えてしまうけど、時間がある分、余計に緊張感が高まっていくのかもしれない。

それに、会長は忙しい人だ。私の都合で日にちを変えてもらうだなんて、そんなことはやっぱりできない。

「・・・大丈夫?」

「う、うん」

「じゃあ、入るね」

「・・・うん」

胸の前で小さくこぶしを握って気合いを入れた。

ーーー大丈夫。落ち着け。一度深呼吸をして、落ち着いていけば大丈夫・・・・・・!

「失礼します」

一葉くんがノックをして声をかけると、内側から「どうぞ」と声が聞こえて扉を開けた。

と、次の瞬間、彼が「うわっ」と驚いた声を出し、口を開いて立ち止まる。

「・・・どうしたの?」

「・・・ごめん。父親だけじゃなかった・・・・・・」

申し訳なさそうに呟いて、一葉くんは、重そうな扉をゆっくり開けた。

途端、室内の様子が目に入る。


(・・・!)


まさに、想像通りのドラマのような会長室。

ここにあることが当然のような高級家具に、有名作家の作品であろう絵画やオブジェが広い空間を装飾している。

窓際を背にしたこの部屋の主の席には、スーツ姿の男性が腰かけていて、私たちを確認すると、すっと椅子から立ち上がった。

50代・・・、60になったばかりぐらいの感じだろうか。白髪交じりの髪の毛は、それなりの年齢を感じるけれど、切れ長の目にスッと通った鼻筋は、一葉くんのそれとよく似てる。

きっとこの方が、「Vulpecula」の会長であり、一葉くんのお父さん。

その会長の両脇を固めるように、瀧澤さんに及河さん、一葉家専属運転手の谷山さん、そして、顔馴染みの清掃員・・・安斎さんが立っていた。

「・・・」

「・・・・・・」

慣れない場所で、複数の視線が一気に私に注がれる。

初めて会うわけじゃない。何度も話をしたことがある人たちだ。けれど、妙な緊張感が私を襲う。

だって今、この状況で、ここにいるっていうことはーーー・・・。

「水谷さん、お忙しいところわざわざお呼び立てして申し訳ない。玲央の父です。お会いするのは初めてでしたね」

「は、はい。初めまして・・・!」

会長ににこりと笑いかけられて、私は恐縮しながら頭を下げた。

バクバクと、心臓が鳴る。

一葉くんに似た優しい笑顔に少しだけほっとしたけれど、それよりも、緊張感が上回る。
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