彩度beige
「・・・父さんだけだと思ったんだけど」

不服そうに呟くと、一葉くんは会長を横目で睨む。

会長は、「悪いな」と言って、ニッと笑った。

「いっぺんに紹介した方が早いだろう」

「・・・早いって・・・。水谷さんの気持ちになってくれないか。いきなり会長室に呼びだされて、それだけでもプレッシャーがかかるのに・・・。大勢に囲まれるなんてさらに嫌だろ」

一葉くんが咎めるような口調で言うと、会長は一瞬ポカンとした後に、「ははは」と声を出して笑った。

「本当だ。玲央は水谷さんのことになるとちゃんと怒ったりもするんだなあ」

「は・・・!?」

会長は、やけに楽しそうだった。

反対に、一葉くんはますます不機嫌そうになる。

「・・・と、水谷さん申し訳ない。水谷さんには確かに負担をかけてしまったね」

「っ、いえ」

「いや・・・、普段、玲央はあまり感情を表に出す方ではないのでね。少し驚いたというか・・・、父親として感慨深いというか嬉しいというか」

「は、はあ・・・」

会長が一葉くんを見る顔は、父親を超えたその先の・・・、溺愛する孫を見るかのような表情だった。

多分、一葉くんのことが大好きなのだと思われる。

「水谷さんのことはみんなから話を聞いていて、是非会いたいと思っていたんです。結婚も考えているようだから、挨拶は早い方がいいだろうし、親族の紹介も早めがいいだろうと考えまして」

「・・・だから、なんで結婚考えてるとかわかるんだ・・・」

一葉くんが、また、会長にカプリと噛みつく。

会長は、さっきと同じく「ははは」と笑った。

「なんだ。考えてなかったのか」

「・・・・・・。それは、まあ・・・、考えてるけど」

「じゃあいいじゃないか」

「・・・」

それ以上何も言えなくなってしまって、悔しそうな一葉くん。

ここで、「すみません」と、瀧澤さんが右手を上げた。

「会長は玲央くんをからかってばかりで話が全く進みません。仕事が残ってる者もおりますので、私が代わりに話を進めてよろしいですか」

「ああ・・・、そうだな。その方が効率良さそうだし任せよう。夏保ちゃん、お願いします」

会長が瀧澤さんを「夏保ちゃん」と、下の名前で呼んだことに驚いた。

それに、瀧澤さんも会長相手にしては強めの姿勢。会長は、それを気にしていないようだけど・・・。

「了解しました。では水谷さん、改めて自己紹介をさせていただきますね。一葉夏保です」

「・・・え・・・?」

一葉夏保。

一葉?瀧澤ではなくて・・・?

聞き間違いかと戸惑う私に、瀧澤さんは小さく微笑む。

「旧姓が瀧澤なのよ。結婚前から『Vulpecula』で働いていたから、結婚した後も、職場ではそのままで通させてもらっているの。私は・・・、玲央くんの兄、昌弘と結婚したのよ」

「!」

「昌弘のことは・・・、玲央くんから聞いているかと思うけど」

驚きながら、私はコクリと頷いた。

瀧澤さんは微笑んで、続きを話す。
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