彩度beige
(・・・あっ・・・)


そうか、もしかして・・・。

・・・そうだ。きっとそうだよね・・・・・・。

私は、合コン中に、元夫とインフルエンサーをやっている綺麗でかわいい彼女と遭遇をした、結構かわいそうな感じの元妻だ。

一葉さんは敦也のことを知らないだろうと思うけど、レストランでのやりとりを見て、敦也が経営者でセレブであるっていうことは、見ていてきっとわかったはずだ。

そして、一葉さんは小説家ーーー・・・。


(・・・うん、きっとそうだ・・・)


一葉さんが、追いかけてきてまで私と話がしたいその理由。

冷静に考えたら、その理由はひとつじゃないか。

「取材、ですか?」

「え・・・?」

「へへ、ちょっとめずらしいですもんね。元セレブ妻で今は実家暮らしでパン屋のパートをしてるとか・・・」

さっきの時点で、まだ、そこまで私の自己紹介はしていなかったはずだけど。

ちょっと自虐的な気分になって、自分から話をしてしまう。

「でも、小説のネタになるような話はできない気がします。話すとまた悲しくなるし・・・、なので、取材はすみません」

「・・・・・・」

私はペコッと頭を下げて、掴まれたままの腕をするりと引き抜いた。

そして、その場を去ろうとしたのだけれどーーー・・・。

「っ、ちょっと待って」

一葉さんがもう一度、私の腕をきゅっと掴んだ。

驚いて、私は瞬時に彼を見上げる。

「・・・あ、あの・・・?」

「・・・、話したくないことは聞かないから。少しだけ、時間もらえませんか」

落ち着いた、低い声。

真っ直ぐな瞳と目が合って、心が引き寄せられていく。

「無理には絶対聞かないし。ほんとに・・・、少しだけの時間でいいんで」

「・・・、で、でも・・・」

掴まれた腕を、妙に意識してしまう。

少しなら・・・って、気持ちはちょっと揺らぐけど、初対面で気軽に話せることではないし、聞かれても、「話せない」っていう答えばかりになるかもしれない。

そうしたら、取材の意味はないだろう。一葉さんにとってはただの時間の無駄になるだけだ。

そうなってしまったら、お互いに、なにもメリットなんてない。

だから私は改めて、断ろうとしたのだけれどーーー。
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