彩度beige
「・・・じゃあ・・・、こういうことならどうですか」
静かな声で、彼が言う。
提案、というよりも、それはまるで呪文のような・・・魔法をかけるかのような言い方だった。
なにかが変わっていくような、そんな予感が胸に宿った。
私が彼を見上げると、夜の闇に、銀色の髪がサラリと光る。
「オレが、あなたを主人公にして物語を書くっていうのは」
「え・・・?」
「エピソードのひとつとか、脇役の一人じゃなくて。あなたを主人公にした物語」
「・・・・・・」
(・・・主人公・・・、私がヒロインになるっていうこと・・・?)
予想外の申し出に、私は瞳を瞬いた。
一葉さんは、慎重な様子で話を続ける。
「さっき、『話すとまた悲しくなる』って言いましたよね。今のあなたがそういう気持ちだとしても、オレは、主人公のあなたを必ず幸せにしますから。だから・・・、今はただ、その最終章に行くための、通過点だって思ってもらえば」
「・・・通過点」
「はい。そうしたら、今の気持ちもただの思い出になっていくだけなので。たとえフィクションだとしても、自分が幸せになっていく話・・・、読んでみたくはないですか」
「・・・・・・」
(ーーーそれは・・・)
もし、そんな話を創り出してもらえるのなら。
それはもちろん・・・、読んでみたいと素直に思った。
「完成したものを読んだ後、それを世に出していいかはあなたが決めてくれて構わないんで。いずれにしても、取材の謝礼は払います」
「え!?で、でも、それだと一葉さんは意味がないっていうか損をするんじゃ」
「いえ。書かせてもらえるだけで十分なんで。損なんてひとつもないですよ」
「・・・・・・」
(・・・そ、そう・・・、なの・・・?)
小説家なら、書いた作品はできるだけ世に送り出し、たくさんの人に読んでもらいたいと思うものではないのだろうか。
小説なんて一度も書いたことがない、私の勝手な考えだけど・・・。
それとも、違う話の土台になったりするのかな。
めずらしさで興味をもたれているのだろうけど・・・、小説家でない私には、一葉さんの気持ちはわからない。
「・・・どうですか。興味ない?」
「い、いえ。興味は・・・・・・、すごくあります」
それは、今まで考えたこともない、とても特別なお話だった。
いいのかな、どんな物語になるのかなって、とてもドキドキするけれど。
興味なら・・・すごくある。
心を込めて頷くと、一葉さんは、安心したような顔で笑った。
「じゃあ、書かせてください」
言いながら、一葉さんが右手を私に差し出した。
大きくて、少し硬そうだけど、とても繊細そうな手だと思った。
ーーー契約の証。
私は一瞬ためらって、けれど、すぐに決意を込めて差し出された右手をきゅっと握った。
「・・・約束。ちゃんと喜んでもらえるように書き上げるから」
「は、はい。では・・・・・・、よろしくお願いします・・・」
思いも寄らない展開だった。
けれど、戸惑いつつも、私は、心のどこかでワクワクしていた。
だって、物語の主人公。
私はこれから、その存在になれるようだから。
静かな声で、彼が言う。
提案、というよりも、それはまるで呪文のような・・・魔法をかけるかのような言い方だった。
なにかが変わっていくような、そんな予感が胸に宿った。
私が彼を見上げると、夜の闇に、銀色の髪がサラリと光る。
「オレが、あなたを主人公にして物語を書くっていうのは」
「え・・・?」
「エピソードのひとつとか、脇役の一人じゃなくて。あなたを主人公にした物語」
「・・・・・・」
(・・・主人公・・・、私がヒロインになるっていうこと・・・?)
予想外の申し出に、私は瞳を瞬いた。
一葉さんは、慎重な様子で話を続ける。
「さっき、『話すとまた悲しくなる』って言いましたよね。今のあなたがそういう気持ちだとしても、オレは、主人公のあなたを必ず幸せにしますから。だから・・・、今はただ、その最終章に行くための、通過点だって思ってもらえば」
「・・・通過点」
「はい。そうしたら、今の気持ちもただの思い出になっていくだけなので。たとえフィクションだとしても、自分が幸せになっていく話・・・、読んでみたくはないですか」
「・・・・・・」
(ーーーそれは・・・)
もし、そんな話を創り出してもらえるのなら。
それはもちろん・・・、読んでみたいと素直に思った。
「完成したものを読んだ後、それを世に出していいかはあなたが決めてくれて構わないんで。いずれにしても、取材の謝礼は払います」
「え!?で、でも、それだと一葉さんは意味がないっていうか損をするんじゃ」
「いえ。書かせてもらえるだけで十分なんで。損なんてひとつもないですよ」
「・・・・・・」
(・・・そ、そう・・・、なの・・・?)
小説家なら、書いた作品はできるだけ世に送り出し、たくさんの人に読んでもらいたいと思うものではないのだろうか。
小説なんて一度も書いたことがない、私の勝手な考えだけど・・・。
それとも、違う話の土台になったりするのかな。
めずらしさで興味をもたれているのだろうけど・・・、小説家でない私には、一葉さんの気持ちはわからない。
「・・・どうですか。興味ない?」
「い、いえ。興味は・・・・・・、すごくあります」
それは、今まで考えたこともない、とても特別なお話だった。
いいのかな、どんな物語になるのかなって、とてもドキドキするけれど。
興味なら・・・すごくある。
心を込めて頷くと、一葉さんは、安心したような顔で笑った。
「じゃあ、書かせてください」
言いながら、一葉さんが右手を私に差し出した。
大きくて、少し硬そうだけど、とても繊細そうな手だと思った。
ーーー契約の証。
私は一瞬ためらって、けれど、すぐに決意を込めて差し出された右手をきゅっと握った。
「・・・約束。ちゃんと喜んでもらえるように書き上げるから」
「は、はい。では・・・・・・、よろしくお願いします・・・」
思いも寄らない展開だった。
けれど、戸惑いつつも、私は、心のどこかでワクワクしていた。
だって、物語の主人公。
私はこれから、その存在になれるようだから。