彩度beige
(・・・そういえば、一葉さんってどういうジャンルの話を書いてるんだろう・・・)


家に帰って、すぐに向かったお風呂の中で、私はぼんやり考える。

あの後・・・、一葉さんとは連絡先を交換し、すぐに別れた。

だから、一葉さんの情報は、小説家っていうことと、多分バイトをしていることと、真美の知り合いの松澤さんの・・・その知り合いだっていうことくらい。


(改めて考えると、ほんとにほとんど知らないな・・・)


探るようで後ろめたさを感じつつ、気になって、帰りの電車の中で「一葉玲央」「小説家」でネット検索をかけてみた。

けれど、それらしき情報は見当たらなかった。

ということは、ペンネームで活動しているのだと思うから、どういう作品を書いているのか、今は全くわからない。

もし、一葉さんが、グロテスクな物語を書く小説家だったらどうしよう。

最後はハッピーエンドになるとは言っても、途中で不可解な事件や事故が頻発しまくる話とか、さすがにそれは・・・、想像すると気持ちがいいものではないのだけれど・・・。

せめて、どういうジャンルで書いているのか確認してから約束すべきだったかも。


(・・・でも、主人公か・・・。フィクションとはいえ、やっぱりちょっとワクワクするな・・・)


一葉さんは、「主人公の私」を幸せにすると約束してくれた。

架空の物語なのだとしても、それはやっぱり楽しみだ。

できれば少女漫画っぽい恋愛ものとか、ほのぼのとしたファンタジーの主人公がいいけれど・・・。


(・・・なんて。30歳のバツイチで、それは高望みかな)


「・・・・・・」

物語をぼんやり想像していると、ふっと、敦也の顔が頭に浮かんだ。

敦也に寄り添っていた、綺麗でかわいい彼女のこともーーーーー・・・。


(・・・・・・)


悲しかった、悔しかった。

だけど同時に、魔法のような一葉さんの言葉を思い出す。

今の私のこの感情は、通過点でありハッピーエンドに繋がるもので、いつかはただ、思い出になっていくらしい。

想像上の世界の話。だけど今、それは私にとって希望に思えることだった。

ーーー約束された最終章。

早く、辿り着きたいな。

それまでに、「主人公の私」はどんな物語を歩んでいくのだろうか。





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