彩度beige
イベント会場からの帰り道。

私は自宅へ、一葉くんはまだ仕事があるため「Vulpecula」へと向かう。

今日、「一葉家お抱え運転手」である谷山さんは、会長であるお父さまの送迎で一日いないそうなので、一葉くんは行きも帰りも電車移動だ。

途中までは同じ方向なので、私たちは一緒に同じ電車に乗った。

「・・・」

「・・・」

隣り合って座っているけど、一葉くんはずっと考え事をしているような雰囲気で、あまり会話は弾まない。

私は、昨日今日と「.Fes」に来る予定しかなかったけれど、一葉くんはそれ以外にホテルの仕事もしているし、隙間時間には執筆もしているのだろうから、疲れも溜まっているかもしれない。


(・・・・・・)


あまり話しかけない方がいいのかな。

電車に乗っている間だけでも、睡眠をとった方がいいかもしれない。

寝ててもいいよって声をかけようか。

それだと逆に気を遣わせるかな。あえて黙っているべきか・・・。

「水谷さん」

悩んでいると、一葉くんから声をかけられて、私はハッとなって隣に座る彼を見た。

ーーー繊細で、綺麗な横顔。

こんな些細なふとした時に、思わずドキッとしてしまう。

「さっきの・・・、緋山さんのことだけど。連絡は、オレが直接メールするから」

「え・・・?」

その発言に、私は少し驚いた。

さっき、緋山くんが私に連絡するって言った時、一葉くんは戸惑った反応をしていたけれど・・・、元々、作家さん対応は私がすることになっていたのもあって、あれはあれで、当然の流れだとも思っていたのだ。

「・・・でも、一葉くんは他の仕事もあるし忙しいんじゃ」

「大丈夫。これからまた金銭的な話も絡んでくるし、直接やり取りした方がスムーズにいくと思うから」

「・・・・・・」


(・・・スムーズに・・・)


それは、私が頼りないとか・・・、私に任せることが心配になってきたのだろうか。

そんな不安を感じていると、一葉くんはそれを感じ取ったのか、気遣うように言葉を繋ぐ。

「水谷さんにやり取りを任せるのが不安とか、そういう話ではなくて。その、オレは・・・・・・」

思いつめたような雰囲気で、一葉くんは言葉に詰まった。

それからふうっと息を吐き、意を決したような顔で言う。
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