彩度beige
緋山くんから私に連絡があったのは、その日の夜のことだった。

メッセージには、突然の再会に驚いたこと、一葉くんから作品を褒められて・・・「Vulpecula」から声がかかって嬉しかったこと、仕事ついてこれからよろしくお願いします、という内容が書かれていた。

「『こちらこそ、よろしくお願いします』・・・、と」

緋山くんは、私が「Vulpecula」の社員だと認識しているようだったので、そこは違うと訂正し、普段はパン屋でパートをしていることや、かなりざっくりだけれど今の立場を話しておいた。

『そうなんだ。でもすげーな。経緯はどうあれ、「Vulpecula」から声がかかるだなんて』

『そうだね・・・。それは本当にありがたくて・・・』

今回の企画に「水谷さんみたいな感覚の人が必要」だって、あの時、一葉くんが私に声をかけてくれたこと。

素直に頷くのはとても怖いことだったけど、「やりたい」って、言ってよかった。

言われたことをただただやるのが精一杯ではあるけれど・・・、経験が、ひとつひとつ積み重なっていく。

改めて振り返ってみると、本当に、夢みたいなことだと思った。


(それにーーー・・・)


『オレは・・・、その、水谷さんのことが・・・・・・』


ふっと、帰りの電車で交わした彼との会話を思い出し、また、胸がドキドキと音を出す。

一葉くんは、あの後なんて言おうとしたのだろうか。

続きは聞いていないけどーーー・・・、どうしたって、あの雰囲気はやっぱり期待してしまう。


(ーーー・・・あの時・・・、一葉くんは、緋山くんとの連絡を最低限にしてほしいって言っていた・・・)


私にとって、緋山くんは元同級生で(元カレでもあるけれど)、これから仕事をお願いする相手。礼儀もあるし、連絡をおざなりにするわけにはいかない。

それはきっと、一葉くんもわかってて・・・、仕事に関する連絡は任せてほしい、けれどその他のことは最低限にしてほしいって、私に言ったのだと思う。


(その理由は、私と緋山くんがヨリを戻したら困るから、って・・・)


「・・・・・・」

・・・うん。

これ以上、ここで緋山くんと話をするのはやめておこう。

キリのいいタイミングで締めくくろうと、『ではまた仕事で』と送信すると、『あー、ちょっと待って』と、緋山くんからメッセージ。


(ん・・・?)


待って?なんだろう・・・、としばらくスマホの画面を眺めていると、『久しぶりだし話がしたいし、近々2人で飲みに行かない?』というメッセージが送られてきた。
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