彩度beige
緋山くんがいなくなった後、「私もそろそろ帰ろうかしら」と、芳江さんも帰り支度を整える。

「お邪魔しちゃ悪いしね」と言ってふふっと笑い、「ではまた~!」と元気に会議室を出ていった。

「あっ・・・」


(・・・芳江さん・・・、気を遣ってくれたんだろうけど・・・)


突然、一葉くんと2人きりになった会議室。

一段と気持ちが落ち着かなくなる。

本当に、まだ仕事が残っているのだろうか。

ドキドキしながら問いかけようとした時に、一葉くんがくるりとこちらを振り向いた。

「・・・ごめん。本当は、棚橋さんから何も頼まれてはいないんだけど」

こっちを向いてはくれたけど、私と視線は合わせない。

少し頬を赤くして、気まずそうに後ろ髪をクシャッと掻いた。

「水谷さんが、あのまま緋山さんと食事に行くのは止めたくて」

「っ・・・、うん・・・」

ここ最近、ずっと心の中で抑えてた。

彼への想いが、溢れ出しそうになってくる。

「・・・、行きたかった・・・?」

窺うように問いかけられて、私はすぐに首を振る。

あの時、私はひたすら断りの言葉を探していたけど、一葉くんには、その姿は悩んでいるように見えたのかもしれない。

「・・・断ろうと思っていたよ。でも、あの状況で、なんて言えばいいのかわからなくて・・・」

もし、あの場面で一葉くんの言葉がなかったら、私はなんて答えていただろう。

疲れてるからーーー、などと言っただろうか。今考えても、正解と思える断りの言葉は出てこない。

「・・・あの、さ」

「うん?」

「この仕事が終わったら、話すって前に言ったけど。やっぱり・・・、今言っていい?」

「えっ・・・」

予想していなかった申し出に、胸がドキッと大きく跳ね上がる。

一葉くんを見上げると、真っ直ぐに私を見下ろす視線と目が合って、頬が一気に熱くなる。

ーーーこの仕事が終わったら、話すって前に言ったこと。

・・・それって。それってつまりーーー・・・・・・。

その時、勢いよく会議室のドアがバーン!と大きく開かれて、瀧澤さんが現れた。

私も一葉くんも驚いて、今まで流れていた空気が一気に変わった。
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