彩度beige
「・・・支配人。『少しだけ様子見てくる』とか言ってましたけど、少しどころじゃないですね。会長がお待ちですから、早く戻ってきてください」

険しい顔。強い口調で言い放つ。

瀧澤さんはいい人だけど、仕事にはかなり厳しい人だ。

「・・・、・・・っ、・・・」

一葉くんは何か言いたげな顔をしていたけれど、それを言わないままに飲み込んだ。

そして、ふうっと小さく息を吐き、瞼を閉じると、表情をキリッと切り変えた。

「・・・、すみません。すぐに行きます」

そう言うと、一葉くんは私に「ごめん」と小さく呟いて、急いで会議室を出て行った。

足音が、すぐに遠くなっていく。

「・・・・・・」


(・・・・・・、また、聞けなかったな・・・)


今、言おうとしてくれたこと。あの時の一葉くんの言葉の続きはーーー・・・、最初に約束した通り、「この仕事が終わったら」というタイミングになるように、神様の調整が入っているのかもしれない。

会議室を出るまで一葉くんの様子を見ていた瀧澤さんは、やれやれ・・・と言った様子で息を吐く。

と、私に複雑そうな視線を向けた。

「・・・水谷さん。申し訳ないけれど・・・、玲央くんの邪魔はしないでくれる?」

「え・・・」

突然の、強い言葉に驚いた。

たった一言だけど、「邪魔」という言葉の衝撃はかなり大きい。

「・・・彼、この仕事だけしているわけではないからね。あなたにだけ構っている暇はないのよ」

そう言うと、瀧澤さんは気まずそうに目を伏せて、会議室を出て行った。

しん・・・、と、静まり返った会議室。

私はひとり残されたまま、しばらくその場を動けなかった。











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