夏の序曲

第２９話 勉強漬けの日々

冬休みに入った初日、朝早くから机に向かった悠斗は、目の前の参考書とにらめっこしていた。
（共通テストの国語と地歴公民、これをしっかり押さえなきゃ足切りされる。でも、2次試験の数学と理科をおろそかにしたら、本番で勝負にならない…。）
一瞬手を止め、深いため息をついた。参考書のページをめくり、再び集中しようとするが、頭の中で葛藤が渦巻いていた。

昼過ぎ、短い昼食を取った後、悠斗は机の上に戻った。
ふとスマホに手を伸ばし、紗彩とのLINEを開いて過去のやり取りを見返す。
「定期演奏会、すごかったな…。」
スクロールする指が止まり、紗彩の「受験、頑張ってね！」という言葉に目が留まる。
（紗彩の応援を無駄にはできないよな。）
画面を閉じ、再び国語の問題に取り組むために鉛筆を取った。

クリスマスイブの夜も、悠斗の机の上には参考書が広がっていた。
だが、長時間の勉強に集中力が切れ、問題を解く手が止まる。
（何やってんだ、俺…。こんな調子で大丈夫なのか？）
焦りと不安で胸がいっぱいになり、無意識のうちにスマホを手に取った。
「今、何してる？」
気づけば紗彩に短いメッセージを送っていた。

数分後、紗彩からの返信が届く。
「家でのんびりしてるよ　悠斗は？」
「勉強中　でも、ちょっと行き詰まってる」
そのメッセージを送ると、すぐに返信が来た。
「たまには休憩も大事だよ　ココアでも飲んでリラックスしてね！」
悠斗はその言葉に小さく笑みを浮かべ、机を離れて台所でインスタントココアを淹れた。

年末の夜、大晦日にもかかわらず、悠斗の家は静まり返っていた。
「お雑煮、作っておくから、夜食代わりに食べなさいね。」母の声が遠くから聞こえるが、悠斗は机に向かって鉛筆を走らせていた。
（今年が終わっても、受験が終わるわけじゃない…。でも、この冬を乗り越えればきっと――。）
カレンダーを見上げ、「1月」の文字を眺めた悠斗は、小さく息を吐き、再び問題集に向かった。