敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 香澄にとっては輝きそのものが神代で、失ってしまったら輝きがどこにあるかも分からない。
「佳祐さんっ……」

 それでも今週のお稽古の時には出品する文字を決めて、清柊のところに持っていかなくてはいけないのだ。

燦然(さんぜん)は心中に在りて馴化(じゅんか)せしとも失する事無し』

 香澄が決めた言葉と全く同じ意味になるように言葉を選択した。
 書にしたときのバランスなどを勘案するとこのように書いた方がいい。

 大きさは一メートルほどの半紙に書くことを考えていた。ちょうど手を半分くらいに広げた大きさだ。紙は横向きで横書き。

 道具一式を出してきて、紙を準備する。真っ白い紙に書くイメージを作っていく。

 集中してくれば、悲しい出来事なんか忘れてしまうものだ。
 いいと思う形で三枚ほどを一気に仕上げる。そして、香澄は筆をおいて、息を大きく吐いた。

 熱意のままに一気に書き上げたものだ。
 けれど、芸術というのはそれだけではない。
 さらにそれを第三者的に見て、修正点を探していく。

 そうして錬成されたものが真に人の前に出せるものなのだ。心を落ち着けながら、墨が乾くのを待つ。
 その間は生徒の採点などをして時間を過ごした。
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