敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
いつもの香澄だ。今まで過ごしてきたこととなにも変わらない。
それでも心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、口から自然とため息が零れてしまうのを抑えることができなかったのだった。
香澄の書を見た清柊は眉間にシワを寄せていた。
「どうしたんです?」
「え?」
「『燦然』ですとか『失する事無し』と書いていますが、その輝きはこの書から見えづらくないですか? 柚木さんらしくないです」
香澄の顔から血の気が引いた。
清柊は厳しい時は確かに厳しいが今までこんなに強いダメ出しをくらったことはない。
「らしく、ない……ですか?」
「ないですね。見るだけで元気をもらえそうな書が柚木さんの持ち味だった。こんな、迷子のように萎縮しているのはあなたらしくないです」
迷子のように萎縮……それはまさに今の香澄の気持ちを捉えていた。
「書き直し……てきます」
「そうですね。なにか心配事があるのなら、それを解決してから書いた方がいいかもしれません」
それは香澄の胸に強く刺さった言葉だった。
しょぼんとしながら、帰り道を車で送迎してもらっていると、スマートフォンが着信を知らせる。神代かもしれない、と慌てて通話ボタンを押すと電話の向こうからは岡野の情けない声が聞こえてきたのだった。
『翠澄先生、助けてー』
「え? 芳睡先生?」
通話してきたのは先日展覧会で会ったばかりの岡野芳睡だった。
それでも心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、口から自然とため息が零れてしまうのを抑えることができなかったのだった。
香澄の書を見た清柊は眉間にシワを寄せていた。
「どうしたんです?」
「え?」
「『燦然』ですとか『失する事無し』と書いていますが、その輝きはこの書から見えづらくないですか? 柚木さんらしくないです」
香澄の顔から血の気が引いた。
清柊は厳しい時は確かに厳しいが今までこんなに強いダメ出しをくらったことはない。
「らしく、ない……ですか?」
「ないですね。見るだけで元気をもらえそうな書が柚木さんの持ち味だった。こんな、迷子のように萎縮しているのはあなたらしくないです」
迷子のように萎縮……それはまさに今の香澄の気持ちを捉えていた。
「書き直し……てきます」
「そうですね。なにか心配事があるのなら、それを解決してから書いた方がいいかもしれません」
それは香澄の胸に強く刺さった言葉だった。
しょぼんとしながら、帰り道を車で送迎してもらっていると、スマートフォンが着信を知らせる。神代かもしれない、と慌てて通話ボタンを押すと電話の向こうからは岡野の情けない声が聞こえてきたのだった。
『翠澄先生、助けてー』
「え? 芳睡先生?」
通話してきたのは先日展覧会で会ったばかりの岡野芳睡だった。