敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「きゃー、ごめんなさい!」
 母親らしき人物が頭を下げているのを見て、苦笑しながら神代は手を振る。

「大丈夫ですよ。それより君、ケガはない?」
 母親が端正な神代にうっとりしているのとは逆で、しゅんとしたこーちゃんは神代に向かって頭を下げる。

 非常に礼儀正しい子だと微笑ましい気持ちになった時だ。
「おじさん、ごめんなさい」
 神代の動きが一瞬止まった。

(おじさ……ん? いや、これくらいの子供なら確かにアラサーと言えばおじさんかもしれないが。それに今日はスーツだしな。子供にとってはスーツの男性なんてみんなおじさんみたいなものだからな)

 別に構わない。
 構わないのだが微妙にダメージを受けているのはどうしてだろうか。

 それにスマートフォンの水没というのもショックが大きい。
 普段ならなんとも思わないが、今日はどうしても香澄に連絡を入れたかったのに。

 神代が噴水に手を入れて水没したスマートフォンを取ろうとした時だ。

 M&A先のホテルの支配人が悲鳴を上げた。
「神代CEO! おやめください! すぐに係に網を持ってこさせます! スーツがダメになってしまう」
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