敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 なかなかお会いできない中、神代さんは寂しいとおっしゃってくださいます。
 私もメールではお伝えできていませんが、とても寂しく思っています。

 本当はもっとお会いしたいです。けれどお互いに忙しいことも理解しております。
 会えない時も神代さんはお元気にされているか、神代さんのことを考えています。

 先日はディナーにお誘いいただきありがとうございました。
 またお食事の際にお会いできるのを楽しみにしております。 柚木香澄』

 それは読んでいてとても心が温まるものだった。
(くれぐれも高村さんがこの手紙へ先に目を通したということが悔しいな)

 心なしか手紙から良い薫りがするのは軽く香を焚きしめてあるからだろうと思われた。香澄のそういう心づかいまで神代は好ましく感じる。

 改めて手紙を見ると手紙の内容も嬉しいことはもちろん、その筆跡までも美しく香澄に惚れ直してしまう。

 数回目を通した神代はまた手紙を丁寧にたたんで封筒に入れ、スーツの内ポケットに封筒ごとしまった。
 懐がほわりと温かいような気がするのはお守りのように香澄の気持ちを嬉しく感じるからだ。

 これほどまでに愛おしい気持ちになれる相手に出逢えることなどなかっただろう。
 お見合いの、しかも身代わりという偶然の出会いに神代は心から感謝していた。
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