敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 * * *

「おかしくないかしら」
 オフホワイトのワンピースは香澄が今年デパートで一目惚れして購入したものだ。

 裾がふわりとフレアになっていてレースをあしらってあり、ウエストを細めのイエローのリボンで結ぶようになっているのが香澄の気に入っているところだった。

「いいんじゃないの?」
 玄関先の全身が映る鏡でチェックしていたら、母がひょいっと居間から顔を出したのだ。
「お母様! 急に出てきたら驚くでしょう?」

「だって香澄ちゃんてばずっと迷っているのだもの。素敵よってお伝えしなかったら外出しないのではないかと思って。とても素敵よ、香澄ちゃん。きっと神代さんも喜ばれると思うわよ?」

 神代が香澄のことを探して家を訪ねてくれたあの時から、母は神代の大ファンなのだ。
 あの端正な顔立ちと優しい振る舞いは母をも虜にしてしまったらしい。

 しかも、今まで交際などできなかった香澄が初めて抵抗なく一緒に出かけたりすることのできる男性なのだ。
 その紳士的なところも好感度が高い原因らしい。

「では……いってまいります」
「はい。気をつけてね。何かあったら連絡してね」
「はい」

 それは出かける際にいつも言われる定型の言葉だった。母は少し考えて、ふふっと軽く笑う。

「お泊まりになった時は早めに言ってね?」
「お母様っ!」
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