敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「右からお豆腐(とうふ)山葵(わさび)、ラディッシュの雲丹(うに)添え、オクラと山芋の和え物です」
「いただきます」
 香澄はお箸を手に取りそっと口に運ぶ。

 品よく、彩いろどりもよく、味もとてもいい。会席料理店で修業をしていたというがそれも納得の味だ。

「とっても美味しいです」
 香澄はカウンターの向こうにいる吉野にそう話しかける。
「それはよかったです」

 そして香澄はまた働いている菜々美の姿を見た。
「菜々美ちゃんは真面目に働いていますね」

「愛想も良くて私にはないところを持っているので、実は非常に助かっています。それにさすがはお嬢様と言うのか、間違いのない舌を持っていますよ」
「ああ、叔父さまはグルメだから」

 菜々美は小さな頃から美味しい店に連れていかれていたはずだ。自然と舌は鍛えられていたのだろう。

「接客も丁寧で愛想も良くて、お客様に好かれていますよ」
「そうなのね……。私が知っている菜々美ちゃんは自由、というか……」

「自由! そういう言い方もあるんですね。私はなんてわがままなお嬢様かと思いましたけど」
 オブラートに包んで言ったのだが、吉野には笑い飛ばされてしまった。
 吉野は菜々美のことを本当によく分かっている。
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