敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 相談はしたものの、回答が私に任せて! だったので一瞬不安になる香澄だった。

 その時、かちゃ……と入口のドアが開いて吉野が顔を出す。
「菜々美? 店の準備がひと段落したから香澄さんと軽く食べないか?」

「あ、食べよう! ていうか香澄ちゃん、大ちゃんのお料理は本当に美味しいの! ぜひ食べていって!」
 満面の笑顔の菜々美に言われたら、香澄は苦笑を返すしかなかった。

 三人でお店に戻り、カウンターの端に香澄は席を作ってもらい座る。
「菜々美ちゃーん!」

 テーブル席の方に常連客がいるらしく、呼ばれた菜々美は前掛けをつけ直して「はーい」と返事をして奥に向かう。

 そうして香澄にウインクしたのだった。
「香澄ちゃんはゆっくりしていてね」
 結局菜々美はそのままお店を手伝うことにしたようだった。

 店の中で常連さんに声をかけられながらも食事が終わっているお皿を下げたり、菜々美はくるくるとよく働いていた。

 そんな姿を微笑ましく香澄が見ていたら、カウンターの中から吉野に声をかけられる。
「コースでお出ししますね」
「はい。ありがとうございます」

 返事をした香澄に吉野は軽く目を伏せて笑った。
 カウンターの向こうから小さな白い横長のお皿に三品ほど乗った先付からお料理が出される。
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