敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 間違ってはいないが、神代は大きく勘違いしていた。確かに普段男性不信気味の香澄が和気あいあいと話していたのだから、誤解したくなるのも当然ではあるが。

「神代さん?」
 香澄は首を傾げる。
「菜々美さんが見つかったという話ではなかったのですか?」
「ええ。そうです」

「なぜ、菜々美さんがいなくて、あなたはこの店の人と楽しそうに話しているんですか?」
「え? ええ?」

 交際などしたことのない香澄である。
 もちろん嫉妬の感情をぶつけられたこともなく、なぜ神代が怒っているのか分からなくて少し悲しい気持ちになりかけていたときだ。

 菜々美が神代の後ろから現れて、香澄をぎゅうっと抱きしめた。
「香澄ちゃんをいじめるなら。絶対に渡しませんよ?」

「菜々美ちゃん……」
「菜々美さん!? え? どういう……?」

 神代は写真の菜々美しか知らない。
 その写真の菜々美はロングヘアで、時に明るくカラーリングしていた。
 メイクも華やかで神代はそんな菜々美しか知らないのだ。

 そうすると、黒髪のショートボブで和服を着ている目の前の人物が菜々美なのだと理解するのに時間がかかってもやむないことではあった。

「とりあえず全員落ち着きましょうか」
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