敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 そう言ったのはカウンターの向こうにいた吉野だった。
 菜々美は香澄をぎゅうっとしたまま離さず、神代を睨んでいる。

 吉野が奥のテーブル席を案内してくれたので、全員で移ることになった。
 テーブルの上にお茶を置いてくれる。

「巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。私はここの店主の吉野大輔と言います。私がまずはきちんとすべきところをしなかったことが今回の原因です。本当にすみませんでした」
 そう言うと、吉野はその場にいた全員に向かって頭を下げたのだ。

「大ちゃんっ! 大ちゃんが謝ることは……」
「いや、そうなんだ。菜々美。俺がちゃんとしなくてはいけなかったんだ」
 軽くため息をついた神代が腕を組む。
「お話をお伺いします」

「少し、お待ちください」
 そう言うと、吉野は店にいたお客さんに急遽店を閉めなくてはいけなくなったから、と説明をし、店の看板を準備中にしてしまった。
 外の灯りも落としてしまって、白い紙を準備する。

「あ……」
 菜々美が声をかけた。
「香澄ちゃんに書いてもらったら?」
「いいわよ」
 香澄は菜々美に言われて気軽に返事をする。

「よくないですっ!」
 それは吉野と神代の合唱だった。思わず香澄は背を反らせてしまう。
 ──え? そんなに?
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