敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「あ、これはなんもしてないわ」
「菜々美……やめろ」
 
 閉めた店の中で菜々美と吉野の話を聞いたのだが、それは惚気のようなものだった。
 つまり前のお店で吉野に一目惚れした菜々美が猛アタックをして、吉野からやっと了解をもらった頃、吉野は独立して退職する予定だった。

 その時期にお見合いの話が出てきたらしい。
「だって、諦められなかったもの。この人と他の人がお付き合いするなんて、想像したくもなかった。この人は私のだってすごく思ったのよ」

「分かりますね、その気持ち」
 その場で口を開いたのは神代だった。
「分かるでしょう? 神代さん!」

 なぜか菜々美と神代が完全に意気投合しているのが、香澄には不思議だった。

 菜々美の父である叔父が他人の意見を聞き入れる人物でないことは吉野以外のその場にいた全員が同意したことだ。
「なるほど、それで家出に至った……ということなのね」

「でも帰るつもりはないから。確かに神代さんが香澄ちゃんとお見合いして上手くいったのだってことを私は理解しているけど、父はどこまで納得しているか分からない。このまま家に帰ったら、私の意向も神代さんの意向も、香澄ちゃんの意向も無視して暴走しかねないもの」
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