復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 彼は先ほどから何やら考え込んでいるのか、ひたすら宙を見つめたまま。私の気配など全く気にしていないのか、もしくは気付いていないのか、琥珀色のアルコールを揺らしながら静かに飲んでいる。

 (彼に会えたのはいいんだけど、どうやって飲み物にこの媚薬を入れたらいいんだろう……)

 なんとか彼に話しかけたいが、先ほどから大人の色香を漂わせているだけでなく「話しかけるな」オーラも漂わせていて、なかなか話しかけられない。こんな時に自分の男性経験のなさを呪ってしまう。 

 (ドラマや映画ではこういう時、よく「お一人ですか?」なんて話しかけてるよね……。思い切って話しかけてみるべきかな……)

 チラチラと彼を見ながらどうしようかと迷っていると、突然、後ろのテーブル席に座っている女性の1人が彼の隣にやって来た。

 「あのぉ〜、お一人ですか?」

 ちょうど今私が言おうとしていたセリフを、鼻に抜ける甘えたような声で彼女は尋ねる。それを聞いた東儀崇人は、口に運ぼうとしていたグラスをピタリととめた。ちらりと話しかけた女性を見るものの、その切れ長の目はブリザードでも吹き荒ぶんじゃないかと思うほど冷たい。

 (はわわわ……やっぱりブチ切れてる……)

 大抵こういうバーは見知らぬ他人にむやみに話しかけるのはご法度になっている。やっぱり話しかけなくてよかったなんて青ざめていると、彼女は恐れを知らないのか再び彼に話しかけた。

 「あのぉ、もしよかったら私達と一緒に飲みませんか?私、ちょうど失恋したばかりで寂しくって〜。誰かと一緒に飲みたいなぁ〜って思ってたところなんです」

 くねっと首を傾げて可愛く微笑むが、東儀崇人はそんな彼女を見向きもせず、「マスター」と低い声で言いながら立ち上がった。
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