恋と首輪


1年前
東雲グループ会長室


「初めまして、会長。月宮みゆと申します。」
「ああ、初めましてだな。君の母親には随分お世話になったのに。」

蓮と同い年にしては大人びた印象の少女は、彼女の母親とそっくりに育っていた。

「ええ、母からお話聞いております。」
「おお、そうか。で、急にどうしたんだ?」
「単刀直入に言うと、会長のご子息と婚約させて頂きたくて参りました。」
「…蓮と、か?」

この年で一人で婚約の申し込みをしてくるなんて。
肝が据わってるにもほどがある。なんだ、この少女は。

「はい、もちろん今すぐではなく高校を卒業したタイミングでも時期をみての話なのですが」
「すまないが、その話は受けられない」
「……なぜでしょうか」
「蓮には自由にさせてやりたいんだ。特に恋愛に関してはな。」

母親が出ていき、悲しい思いをさせた蓮にはいつも同じ言葉を言っていた。
愛なんて見えないものを信じるな。
そのせいで蓮が本当の愛を知ることができないとしても。
東雲財閥の御曹司であるという肩書で遅かれ早かれ色んな女が寄ってくる、
そんな女たちにいちいち捕まっては、キリがないのだ。

「…では、ご子息が私を選べばお許しくださいますか?」
「…は?」
「蓮様が学校内でされている"首輪"に、私が選ばれたら考えてくださいますか?」

なるほど、そうきたか。

「……半年。」
「…え?」
「選ばれてなお、半年蓮が君から首輪を外さなければその時また考えよう。まあ、無茶な話だけどな。」
今までの首輪をつけられた子たちは最低3日、最高1週間で外されていると聞いた。
絶対に無理だ。

「……わかりました。」



「お嬢様、いつまで身分を隠し続けるおつもりですか?」
「いつまでって、ミッションクリアするまでだよ」
「……ミッション…婚約のことですか?」
「うん」

私の秘書の南雲から細かく調べられ上げられた東雲蓮の報告書を受け取る。

「あ、南雲こそこっち側の人間だってこと、バレてないよね?」
「ええ、もちろんです。」
「ちゃんと私の偽の報告書渡した?」
「はい。思いっきり平凡にとのお言葉で、その通りに作りました。」

「さっすが、心配するまでもないね」

首輪に選ばれる前から、南雲には、スパイとして東雲財閥に送り込んでる。
こんな使える人材を、あっちにやるのは惜しいけど、仕方がない。

…東雲蓮と、婚約するためなら。
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