恋と首輪

今でもふと蘇る。
目の前には息が荒く、顔が真っ青で、

今にも途絶えてしまいそうなお母さんの姿。

「……みゆ……ッ」
「……お母さんッ…嫌……死んじゃ嫌……」

数年前から過労でひどく弱ったお母さんは、
医者から止められても仕事をまっとうした。

それが自分の寿命を縮める行為だとわかっていながら。

財閥を背負うプレッシャーに耐えられず、他の女のもとへ逃げたお父さんの分まで。
最後の力を振り絞って私の頬に手を添えるお母さんの痩せ細った手。


「…みゆ…。私はお父さんを憎んでるけど、ただ一つだけ感謝してることがあるの…ッ…。みゆ…あなたを私に授けてくれたこと。……あなたは才能がある…だからきっと私ができなかったことを成し遂げられる……」　
「……できなかった、こと？」
「……そうよ、よく聞いて。…私がみゆぐらいの歳の時、私には婚約者がいたの。」
「…えっ、？」

「…日本一の財閥の御曹司でね、すごく素敵な人だった。でも私は断ったの。その時好きだったお父さんが忘れられなくて。……今考えるとそれがお母さんの人生で1番の間違えだった。…お父さんを好きにならなければよかったって今でもずっと思ってる。……愛はね、残酷なの……お父さんが私を捨てて逃げた今でも私の心の中にはずっとお父さんがいる……憎いぐらいに」
「……ッ、」
「…みゆには…私のようにはならないでほしい。私みたいに傷つかないで欲しい。愛なんて目に見えないものを信じないで……あなたの力で…ッ…私が最後まで継げなかったこの家をもっと大きくするのよ……お願い…」

この時お母さんとした"約束"
私がこの家を大きくする。
お母さんができなかったこと……

お母さんが婚約を断った
日本一の東雲財閥の御曹司の息子。現、跡取り。


……東雲蓮と結婚する。

まだ未熟な14歳だったこの時、
私はすでにやるべき事が明確に見えていた。