野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)
 やっと惟光(これみつ)が参上した。
 いつもは常に(ひか)えているのに、今夜はいないどころか居場所さえ分からなかった。(にく)く思いながらも近くにお呼びになる。
 事情を説明しようしても、あまりのことですぐにはお言葉が出てこない。右近(うこん)は惟光の姿を物陰(ものかげ)から見て泣いている。女君(おんなぎみ)が源氏の君と結ばれることになったきっかけは、この惟光だった。
 緊張の糸が切れた源氏の君は、ようやく悲しみに気づいたかのようにひどくお泣きになる。
 しばらくしてから口を開かれた。
「大変なことが起きたのだ。こういうときはお祈りだと思って、僧侶(そうりょ)を連れてくるように言ったのだが」
「母の家におりました僧侶は、昨日寺へ戻ってしまったのです。私を呼びにきた家来から『女君が急死なさった』と聞きましたが、もともとご病弱(びょうじゃく)な方だったのですか」
「いや、そんなことはない」
 源氏の君はまた泣いてしまわれた。惟光も思わずもらい泣きする。

 惟光も源氏の君と同じくらいの若者なので、この先どうなさるべきかはっきりとは言えない。
「このお屋敷の管理人には知られぬ方がよいと存じます。管理人は信用できる者だとしても、家族や周りの者はどうか分かりません。とにかくまずは、女君と一緒にここをお出になった方がよろしゅうございます」
「どこに行けばよい。ここよりも人目(ひとめ)につかない場所などないだろう」
 不安そうにおっしゃる。
難題(なんだい)でございますね。女君の家にお連れしたら、留守番をしている女房たちが泣きわめくでしょう。近所に聞こえてしまいます。いっそ山寺(やまでら)はいかがでしょうか。亡骸(なきがら)を運びこんでも気にする者はおりません。私の知り合いの(あま)がいる寺へお運びいたしましょう」
 惟光は源氏の君の乗り物を()(えん)まで移動させると、女君を敷物(しきもの)にくるんで乗せた。源氏の君にはとてもできなかった。
 敷物の間から長い(かみ)がこぼれている。源氏の君はすべて見届けたいとお思いだったけれど、惟光は先手(せんて)を打った。
「女君は私が寺までお運びいたします。あなた様は私の馬で二条(にじょう)(いん)へお帰りください。人目(ひとめ)が多くなる前に」
 右近を乗り物に乗せ、自分は歩いて山寺に向かう。こんなお供は初めてだけれど、源氏の君のご様子を見れば自分がなんとかするしかない。
 源氏の君は正気を失われた状態で、どうにか二条の院までたどり着かれた。
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