野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)
 さて、こうして気になる女性は増えていく一方だけれど、空蝉(うつせみ)(きみ)のことも源氏(げんじ)(きみ)はお忘れになっていない。冷たく(こば)まれたからこそ、(くや)しくていつまでも気にかかっていらっしゃる。あの女性談義(だんぎ)をなさってから、これまで視界に入らなかった階級にまでご興味が広がったみたい。
 人違いと知りながら関係を持ってしまった継娘(ままむすめ)は、今も無邪気(むじゃき)にご連絡を待っているらしい。かわいそうだとお思いにならないでもないけれど、まずは空蝉の君を口説ききってからと考えていらっしゃる。
  
 ちょうどそこへ空蝉の君の夫が参上した。
 この人は伊予(いよ)(すけ)という官職で地方に赴任(ふにん)している。年寄りだけれどすっきりと美しく、(おとこ)ぶりのよい人だった。
 (みやこ)に一時的に戻ってきたので、真っ先に源氏の君のもとへご挨拶(あいさつ)に上がった。船旅で日焼けして顔がやせている。みっともないけれど、もともと家柄(いえがら)のよい人だから、そこはかとない品があった。
 任国(にんこく)でのめずらしい話をお聞かせする。源氏の君は、目の前にいるのが空蝉の君の夫だと思うと気恥ずかしい。後ろめたくて、人妻を不倫(ふりん)の道に引きずりこんだことを反省なさった。
<あの人の冷淡(れいたん)さに腹は立つが、夫にとっては立派な心がけの妻なのだ>
 とお思いになる。

「このたび都に(のぼ)りましたのは、娘を結婚させるためでございます。それが済みましたら妻を連れて伊予の国へ戻ろうと存じます」
 こんなことを言って伊予の介は帰っていった。源氏の君は驚きあわてて小君をお呼びになる。
「なんとかもう一度あの人に会えないだろうか」
 密会(みっかい)はお互いに思い合っていても簡単ではない。まして空蝉の君はとんでもないことだと思っている。
<二度も源氏の君を拒んだのに、今さらなびいてはみっともない>
 自分の立場をわきまえようとする一方で、これきり忘れられてしまうこともつらい。ときどきはお手紙に返事を書く。
 源氏の君はさりげない文章にもいじらしさをお感じになった。冷淡なのは(にく)いけれど、女君のことをますます忘れがたくお思いになる。
 継娘の方は結婚後も簡単になびくだろうと見くびって、縁談(えんだん)がまとまりそうだとお聞きになってもまったく平気でいらっしゃる。
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