野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)
物思いを誘う秋になった。
源氏の君には女性関係でお悩みがたくさんある。
奥様のことはたまにしかお訪ねにならない。冷たい婿君だと、左大臣家ではお恨みしている。
では六条の御息所のところにお越しになっているのかと言うと、そうでもない。拒む御息所を恋人になさるまでは熱心だったのに、手に入れた途端お気持ちは冷めてしまったみたい。御息所がお気の毒。いったい何がお気に召さないのかしら。
御息所は物事を思いつめるご性格だから、
<年齢差ひとつ取っても、世間がこの関係を知ったら私は笑い者になるだろう>
と心配なさる。源氏の君のお越しにならない夜が続いて、眠れないほどあれもこれも悩んでいらっしゃった。
ひさしぶりに源氏の君は御息所のお屋敷をお訪ねになった。
一晩過ごされた翌朝は濃い霧が立ちこめていた。ふつうの恋人同士でも、女性は明るくなる前に恋人を帰らせるべき。まして世間にふたりの関係を知られたくない御息所は、早く早くと源氏の君をお急かしになった。
まだ眠そうな源氏の君がしぶしぶ部屋からお出になると、「お見送りを」と言うように女房が御息所の前のついたてをずらす。御息所は頭をもたげて外をご覧になった。
簾の向こうで、源氏の君は庭の花を眺めていらっしゃる。そのお姿がすばらしく美しい。
女房は乗り物のところまで源氏の君のお供をしていく。季節に合った色の着物を着ていて、腰のあたりがなまめかしい。
濡れ縁の角を曲がったところで源氏の君は振りかえり、女房を座らせなさった。
<隙のない身のこなし、豊かな髪、最高の女房だ>
思わず浮気心が起きて、女房の手をお取りになる。
「気持ちの移りやすい男だと思われても困るが、この花も手に入れたい。どうしたらよいだろう」
女房は慣れた様子でお手をほどいた。
「本当に御息所は花のように美しいお方でございます」
わざと気づかないふりで微笑む。
源氏の君をおそばで拝見し、親しげなお言葉をかけていただいた女房は、源氏の君の輝きにすっかり魅了されてしまう。ここの女房たちも、
<早く御息所が奥様のひとりとして扱われるようになって、源氏の君を一日中拝見できたらよいのに>
とやきもきしている。
源氏の君には女性関係でお悩みがたくさんある。
奥様のことはたまにしかお訪ねにならない。冷たい婿君だと、左大臣家ではお恨みしている。
では六条の御息所のところにお越しになっているのかと言うと、そうでもない。拒む御息所を恋人になさるまでは熱心だったのに、手に入れた途端お気持ちは冷めてしまったみたい。御息所がお気の毒。いったい何がお気に召さないのかしら。
御息所は物事を思いつめるご性格だから、
<年齢差ひとつ取っても、世間がこの関係を知ったら私は笑い者になるだろう>
と心配なさる。源氏の君のお越しにならない夜が続いて、眠れないほどあれもこれも悩んでいらっしゃった。
ひさしぶりに源氏の君は御息所のお屋敷をお訪ねになった。
一晩過ごされた翌朝は濃い霧が立ちこめていた。ふつうの恋人同士でも、女性は明るくなる前に恋人を帰らせるべき。まして世間にふたりの関係を知られたくない御息所は、早く早くと源氏の君をお急かしになった。
まだ眠そうな源氏の君がしぶしぶ部屋からお出になると、「お見送りを」と言うように女房が御息所の前のついたてをずらす。御息所は頭をもたげて外をご覧になった。
簾の向こうで、源氏の君は庭の花を眺めていらっしゃる。そのお姿がすばらしく美しい。
女房は乗り物のところまで源氏の君のお供をしていく。季節に合った色の着物を着ていて、腰のあたりがなまめかしい。
濡れ縁の角を曲がったところで源氏の君は振りかえり、女房を座らせなさった。
<隙のない身のこなし、豊かな髪、最高の女房だ>
思わず浮気心が起きて、女房の手をお取りになる。
「気持ちの移りやすい男だと思われても困るが、この花も手に入れたい。どうしたらよいだろう」
女房は慣れた様子でお手をほどいた。
「本当に御息所は花のように美しいお方でございます」
わざと気づかないふりで微笑む。
源氏の君をおそばで拝見し、親しげなお言葉をかけていただいた女房は、源氏の君の輝きにすっかり魅了されてしまう。ここの女房たちも、
<早く御息所が奥様のひとりとして扱われるようになって、源氏の君を一日中拝見できたらよいのに>
とやきもきしている。