野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)
 そうそう、夕顔(ゆうがお)の家の女主人(おんなしゅじん)のことをお話ししないとね。
 あれから惟光(これみつ)はいろいろと探った。
「まだ女主人が誰かまでは分かっておりませんが、家の前を乗り物が通るたびにしきりと気にしているようです。女主人まで外を(のぞ)いていることがございます。先日は女童(めのわらわ)が、『頭中将(とうのちゅうじょう)の乗り物がお通りになります』とあわてて女房を呼んでおりました。『どうして頭中将の乗り物だと分かったの』と女房が尋ねますと、女童は『お(とも)のなかに知っている人がいたのです』と」
 意外な名前が出た。
<もしかしたら女主人は頭中将の恋人だろうか。正体をこれほど(かく)していて、何か深い事情がありそうなことを考えると、行方(ゆくえ)不明になったという昔の恋人かもしれない>
 あの雨の夜の女性談義(だんぎ)で、「かわいい娘を連れて姿を消してしまった」と頭中将が(なげ)いていらしたことを思い出される。
「手紙のやりとりをしていた若い女房を恋人にしましたので、家のすみずみまで見て、女房たちの会話も聞いてまいりました。私には女主人など存在しないようなふりをして、お互い敬語を使わず友人同士のように話しております。女童(めのわらわ)などがうっかり敬語を使うと、周りの女房たちがあわててごまかそうといたしますから、こちらはもう女主人がいることを知っているのに、とおかしくて」
 
乳母(めのと)の見舞いのついでに私にも垣間(かいま)()させよ」
 源氏の君の期待は高まる。
<あそこは仮住まいだとしても、おそらく下流の家の娘だろう。思いがけずよい女性だったらおもしろい>
 忠実(ちゅうじつ)な家来の惟光は、うまく立ち回って源氏の君と女主人を恋人関係にした。そのあたりの詳しい話は長くなるからやめておくわ。
 この女君は夕顔の家に住んでいるから、夕顔(ゆうがお)(きみ)とお呼びしましょう。
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