君のいないクリスマス
エレベ-タ-で屋上までは、あっという間。七瀬は勝手知ったる様子でスカイデッキから屋外展望台へと進んで行く。


「寒いな。」


思わずそんな言葉が口につく。


「寒いから・・・いいんじゃん。」


と答えた七瀬は、やや唇を尖らせていたようにも見える。周囲を見渡すと、何組ものカップルが眼下に広がる東京の夜景を寄り添って見つめている。そうだよな、今日はクリスマスなんだものな・・・。


「綺麗だな。」


フェンス際の空いたスペ-スに歩み寄った俺は言った。すると


「ごめん。」


俺の言葉に対する返事としては、やや似つかない言葉を七瀬は口にする。


「七瀬。」


「大和がそんなの求めてないのはわかってるんだけど・・・でもせっかくクリスマスに会ったんだから、最後くらいはそれっぽい雰囲気になりたかったんだよ。」


伏し目がちにそう言った七瀬に


「そんなことねぇよ。」


俺は静かに言った。その言葉に、ハッと顔を上げた七瀬に


「七瀬、ありがとうな。」


俺は心からそう言った。


「大和・・・。」


「この1年、七瀬が折に触れて、俺に寄り添ってくれて、俺は救われた。お前がいなかったら、俺は・・・ダメになってたかもしれない。」


「そう言う割には、あんた、私のこと忘れちゃったじゃない。あれ、結構ショックだったんだけど。」


「すまん。それは本当にごめんな。」


今年のバレンタインデ-、俺は同僚と呑みに行った帰り道に交通事故に遭った。一命はとりとめたが、部分記憶障害って奴になってしまって、俺は何か月か、七瀬のことがわからない状態に陥ってしまった。その間も、七瀬は懸命に支えてくれた。そして、記憶を取り戻し、リハビリを経て、社会復帰して、今日に到るまで、七瀬は忙しい仕事の間を縫って、俺に力を貸してくれた。それは、幼いころから、きょうだいのように育った情愛だけがその理由じゃないことは、俺にも十分わかっている。


「今日、七瀬と会うのが楽しみだった。嘘じゃないぜ。でも・・・華やかな街並みを歩きながら、待ち合わせ場所に向かう間に、胸をよぎるのは、弥生との思い出ばかりだった。七瀬とだって、小さい頃から、高1までずっと一緒にクリスマスを過ごして来たのに・・・。」


「それはしょうがないよ。だって大和にとって、私と佐倉さんは全然違う存在なんだから・・・。」


そう言った七瀬の顔はやっぱり寂しそうだった。
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