嘘つきと疫病神
辺りをキョロキョロと見渡しながら状況の把握に努めていると、不意に仁武が頬に触れ、視界が揺れ動く。
優しくも強引に視線を動かされる。大方、中々見てほしいものを見つけられない蕗に痺れを切らしたのだろう。
一歩前に進んだ仁武の真っ直ぐな視線の先に目を向けると、そこには丘の麓にある町と真っ白な雪景色が広がっていた。
「うわあ…………すごい、綺麗」
ここはいつの日か見た写真に写っていた場所だ。初めて写真というものに触れ、何かを綺麗だと思った瞬間。
季節こそ違えど、幼き自分が綺麗だと思った景色は変わらずに存在していた。
とは言え、丘に登ってこの景色を見るのは今日が初めてである。何度も訪れようと思えばそうできたのに、無意識の内に避けていたらしい。
「もっと早く見せたかったんだけど、もうこんな時期になっちゃった」
「雪も綺麗だよ。知らない町を見ているみたいで、ちょっとワクワクする」
毎日当たり前のように歩き回っている町、何気なく暮らしている町でも見方を変えればこんなにも変わった姿を見せるのだ。
これまでにも雪は数え切れないほど降ったが、今日の雪は格別に美しい。
町を真っ白に染め上げ、子供達の騒がしい声で埋め尽くす。
出会った時期がもう少し遅かったのなら、もっと長く共にいることができたのなら、二人で雪を見て笑い合えたのだろうか。
「雪が降ると特別な日って感じがするんだよな。何も変わったことをしてるわけじゃないのに、雪の日は気分が違うんだ」
「気分が、違う?」
「写真を撮りたくて撮りたくて我慢できないんだ。白銀の世界を写真に残したくて、写真機だけを持って家を出ようとするくらい」
幼い頃の仁武を詳しく知っているわけではないが、彼の写真に対する信念の強さはよく知っている。
強い憧れから足を踏み入れた写真という世界で、本気で将来を考えるまでにのめり込んだのだ。
彼が写真を愛していなかったら、蕗と仁武の距離がここまで縮まることはなかったかもしれない。丘からの景色を写した写真を見たからこそ、蕗は彼が撮る写真をもっと見たいと思えた。
「この景色も写真にしたい?」
白い息を吐き出しながら惚けて問えば、静かに細められた視線が降ってきた。
「うん」
たった一言の返事でも、彼が今も写真に対する想いを忘れられずにいるのだと知らしめられる。
夢にまで思うくらいに愛していた写真を突然取り上げられたのだから、忘れられないのも無理はない。
蕗が十年間彼のことを忘れずにいたのと同じように。
「写真館に行けたら良かったのになあ」
「あの店は終わったんだ。もう、俺達が近寄る理由も必要もない」
「でも……っ」
「元々はばあちゃんの店だ。俺はただの手伝い。後継ぎになるつもりでいたけど、結局俺は後継ぎになれなかった。今更、店長面してあの店に行くことはできないよ」
誰よりもあの店を愛していて、もう一度写真館として営業したいと考えているのは仁武である。しかし、そんな彼が全てを諦めたような顔でそう言うのは、もう昔の幸せだった頃には戻れないと理解しているからであった。
優しくも強引に視線を動かされる。大方、中々見てほしいものを見つけられない蕗に痺れを切らしたのだろう。
一歩前に進んだ仁武の真っ直ぐな視線の先に目を向けると、そこには丘の麓にある町と真っ白な雪景色が広がっていた。
「うわあ…………すごい、綺麗」
ここはいつの日か見た写真に写っていた場所だ。初めて写真というものに触れ、何かを綺麗だと思った瞬間。
季節こそ違えど、幼き自分が綺麗だと思った景色は変わらずに存在していた。
とは言え、丘に登ってこの景色を見るのは今日が初めてである。何度も訪れようと思えばそうできたのに、無意識の内に避けていたらしい。
「もっと早く見せたかったんだけど、もうこんな時期になっちゃった」
「雪も綺麗だよ。知らない町を見ているみたいで、ちょっとワクワクする」
毎日当たり前のように歩き回っている町、何気なく暮らしている町でも見方を変えればこんなにも変わった姿を見せるのだ。
これまでにも雪は数え切れないほど降ったが、今日の雪は格別に美しい。
町を真っ白に染め上げ、子供達の騒がしい声で埋め尽くす。
出会った時期がもう少し遅かったのなら、もっと長く共にいることができたのなら、二人で雪を見て笑い合えたのだろうか。
「雪が降ると特別な日って感じがするんだよな。何も変わったことをしてるわけじゃないのに、雪の日は気分が違うんだ」
「気分が、違う?」
「写真を撮りたくて撮りたくて我慢できないんだ。白銀の世界を写真に残したくて、写真機だけを持って家を出ようとするくらい」
幼い頃の仁武を詳しく知っているわけではないが、彼の写真に対する信念の強さはよく知っている。
強い憧れから足を踏み入れた写真という世界で、本気で将来を考えるまでにのめり込んだのだ。
彼が写真を愛していなかったら、蕗と仁武の距離がここまで縮まることはなかったかもしれない。丘からの景色を写した写真を見たからこそ、蕗は彼が撮る写真をもっと見たいと思えた。
「この景色も写真にしたい?」
白い息を吐き出しながら惚けて問えば、静かに細められた視線が降ってきた。
「うん」
たった一言の返事でも、彼が今も写真に対する想いを忘れられずにいるのだと知らしめられる。
夢にまで思うくらいに愛していた写真を突然取り上げられたのだから、忘れられないのも無理はない。
蕗が十年間彼のことを忘れずにいたのと同じように。
「写真館に行けたら良かったのになあ」
「あの店は終わったんだ。もう、俺達が近寄る理由も必要もない」
「でも……っ」
「元々はばあちゃんの店だ。俺はただの手伝い。後継ぎになるつもりでいたけど、結局俺は後継ぎになれなかった。今更、店長面してあの店に行くことはできないよ」
誰よりもあの店を愛していて、もう一度写真館として営業したいと考えているのは仁武である。しかし、そんな彼が全てを諦めたような顔でそう言うのは、もう昔の幸せだった頃には戻れないと理解しているからであった。