刹那に触れる兎

北島くんを見送ると、わたしは部屋の端に置いてある椅子に座り、煙草を咥え、ライターで火をつけた。

すると、部屋のドアをノックして、開いたドアの隙間から男性スタッフが「レミさん、次のお客様がお待ちです。」と声を掛けてくる。

「ちょっと待って。煙草の1本くらい吸わせてよ。」

煙草をふかしながら、わたしがそう言うと、男性スタッフは「では、5分後にお連れしますので、宜しくお願いします。」と言うと、ドアを閉めた。

わたしには、お客を相手したあとの合間5分しか休憩がない。

その間に煙草休憩をして、簡単にシャワーを浴び、シルクのガウン一枚だけを着て、清掃された隣の部屋へと移る。

すると、次に部屋に入って来たお客は、常連の諏訪さんだった。

「どうも。」

そう言って部屋に入って来た諏訪さんは、仕事帰りのスーツのままで、かっちりした鞄をソファーの上に置くと、そのままソファーに腰を下ろした。

「今日も来たの?弁護士さんなら、こんなとこに来なくたって、たくさん女が群がってくるでしょ?」

わたしがそう言うと、諏訪さんはクールな微笑みを見せ、「僕は、レミさんがいいんです。」と言った。

諏訪さんは、確か38歳の独身で仕事は弁護士。
背が高く、銀色フレームの華奢な眼鏡をかけており、クールな目元にいかにもお堅いイケメン弁護士といった感じだろうか。

いつも仕事帰りに来るのだが、わたしには指一本も触れず、ただいつも「僕と付き合ってくれませんか?」とわたしを口説きに来るのだ。

< 2 / 57 >

この作品をシェア

pagetop