刹那に触れる兎
「レミさん、僕と付き合ってくれませんか?」
今日もまた出たその言葉。
わたしはベッドに腰を掛け、足を組むと「何でわたしなの?女なら、他に山程いるでしょ?わたしは色んな男を相手してる穢れた風俗嬢。弁護士さんの隣に居るには相応しくない女よ?」と言った。
そう、わたしは汚い穢れた風俗嬢。
この仕事に誇りを持ってやっている人もいるだろうが、わたしは違う。
自分を汚したくて、穢したくてこの仕事を選んでやっているのだ。
「レミさんは穢れてなんていません。美しい女性です。」
「それは、どうも。」
「僕は、肩書と金目当てで言い寄って来る女たちの方が、よっぽど穢れていると思います。」
「女なんて、そんなもんよ?」
「いえ、レミさんは違います。」
「何でそう思うの?」
「弁護士の勘です。仕事柄、悩みを持った人たちをたくさん見てきてますからね。」
わたしは諏訪さんの言葉に「弁護士の勘ねぇ。」と鼻で笑うと、遮断されている窓辺に置いた自分の煙草の箱に手を伸ばした。
「レミさんは、悲しい瞳をしている。隠しているつもりでしょうが、僕には分かります。」
「悲しい瞳?」
「はい。まるで、兎のような。」
わたしは煙草を咥えると、「わたしが兎?」と笑い、ライターで煙草に火をつけ、深く煙を吸い込み肺に落とした。
「僕には、一匹を好む狼の仮面を被った兎に見えます。」
わたしは、諏訪さんの言葉には反応せず、肺に落とした煙をゆっくりと吐き出した。
諏訪さんはいつも痛いところを突いてくる。
まるで、わたしの過去を知っているかのように。