刹那に触れる兎

わたしは、元々某企業で事務員として働いていた。

当時、同じ年の彼氏が居て、同棲もしていて、平凡な毎日を送っていた。

そんなある日。
残業で遅くなったわたしは、急いで自宅に帰ると、いつもなら先に彼が帰宅して電気が点いているはずのリビングが真っ暗だった。

わたしは彼の名を呼びながら、部屋の中を探し回った。

すると、寝室のクローゼットが不自然に開いていることに気付き、わたしはクローゼットを開けた。

そこには、首を括った変わり果てた彼の姿があったのだ。

その時はなぜ彼が自死を選んだのか分からず、泣き崩れたが、彼が亡くなってから分かったのは、彼には浮気相手がいて、浮気相手を妊娠させてしまったという事だった。

浮気相手に結婚を迫られた気の弱い彼は、わたしにも真実を話せず、追い詰められ、わたしを裏切った挙句、自死を選びこの世から逃げたのだろう。

そのあと、彼の浮気相手から「あんたの彼氏の子なんだから、あんたが養育費払いなさいよ!」と訳の分からない事を言われ、わたしは思った。

今まで真面目に生きてきたけど、"真面目に生きてれば報われる"なんて嘘だ。

何だか、真面目に生きているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

わたしは今まで真面目に働いてきた事務員を辞めると、誰も知らない場所へと引っ越し、今までの自分を捨てる為に風俗嬢という職業を選んだ。

そして、その職業で彼の浮気相手だった女の名前"レミ"を源氏名として名乗り、自分を汚し、穢して自分を大嫌いになっていった。

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