【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
 その日から、ダニエルとアシェルは毎日食卓を共にするようになった。
 もちろん、食べているものは全く違うし、ただ同じ空間にいるというだけだ。けれど、ふたりの距離が近づいたようでフィオナは嬉しくてたまらない。


「……赤ん坊の食事とは、そのようなものなのだな」

「そのようなもの、とは?」

「思ったよりもドロドロしているし、そんなふうにつきっきりで食べさせねばならないとは思わなかった」


 ひとさじひとさじ、丁寧に離乳食を口に運ぶフィオナを見つめつつ、アシェルは本気で驚いている様子だ。


「そうですね……まだ上手に飲み込めないので、見守りが必要な状態です。だけど、もう少ししたらご自分でスプーンを持っていただいて、お食事の練習をはじめようと思ってます。たくさんこぼして、途中から飽きて遊んでしまうでしょうね……。スプーンじゃなく、手づかみで食べることもあると思います」

「……なんだか嬉しそうだな」


 大変だろうに、とつぶやきつつ、アシェルはフィオナをじっと見る。


「ええ! わたしはダニエル様の成長が見られるのが本当に楽しくて、嬉しいのです。心の底から幸せだと思います」

「――ずっと前から気になっていたんだが、フィオナはどうして、他人の子供にそこまで親身になれるんだ?」

「どうして……?」


 フィオナの表情から明るさが消える。ややして、フィオナの瞳に涙が滲んだ。


「す、すまない! 君を傷つける気はなかったんだ。私はただ、君をすごいと思って……」


 予想外の反応にアシェルが慌てふためく。フィオナは「いえ」と相槌を打ってから、ゆっくりと顔を上げた。


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