【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「……やっぱり気が引けるなぁ」

「それでは、少しの間お庭を散策させていただきますか? 先方からは自由に見て回って構わないと言われておりますし」

「……うん。それで時間稼ぎになるなら」


 ブレディン様に会いたくない。彼と婚約するのがわたしだなんて、どうしても受け入れられないんだもの。

 こんな結末なら知らないほうが良かった……っていうのは読者のわがままだってわかってるけど。


(生きててよかったって思ったのにな……)


 本当に。唯一の心残りを果たせたって思ったのに。
 じわりと涙がにじんだそのときだった。


「ごめんなさい……もう会わないって決めていたのに」


 風に乗って鈴のように可憐な声音が聞こえてくる。アイラの声だ。
 急いであたりを見回すと、わたしたちから少し離れた位置にアイラとブレディン様を見つけた。すぐに木の陰に身を隠し、必死に耳をそばだてる。


「アイラ……」

「だけど、どうしても会いたくて……諦めきれなくて……」


 一瞬の沈黙。ブレディン様がアイラのことを強く抱きしめた。


「俺も。本当はアイラに会いたかった。……アイラと結婚したいって思ってた」

(うわぁあ! うわぁああああ)


 これです先生! わたしはこの画が見たかったんです!

 二人は互いを抱きしめながら泣いている。わたしも一緒になってむせび泣いている。


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