【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「以前申し上げたでしょう? 外堀は私が責任を持って埋めます、と」

「うん、聞いた。だけどそれが、わたしのためにアンセルが自分を犠牲にすることだとは思ってなかったし」

「……お嬢様はバカですね」


 アンセルは立ち上がり、わたしのことを抱きしめた。ふわりと香るシトラスの香り。思わず胸がキュッとなる。


「たとえお嬢様が望まずとも、私は今と全く同じことをしていました。お嬢様のため、というのはすべて建前です。私は自らの意志で外堀を埋めました。お嬢様が――マヤ様のことが好きだから」


 アンセルの腕に力がこもる。瞳から涙がポタポタとこぼれ落ちた。


「ですから私は、どうしてもあなたと結婚したかったんです」

「……うん」

「十年かけてコツコツと準備をしてきました。けれど、まさか私が情報を得るまもなくブレディン様との婚約が決まるとは思わなくて。遅れを取ったのは一生の不覚です」

「アンセルでも失敗することがあるのね」

「面目ありません。今日まで黙っていたのはマヤ様を驚かせたかったから……お好きでしょう? サプライズが」

「そうだけど! ちょっとぐらい、なにを考えているか教えてくれたってよかったのに」


 アンセルの唇が額に触れる。頬を撫でられ、思わずぎゅっと目をつぶる。アンセルがクスリと笑う声がして、わたしは彼を睨みつけた。


< 242 / 263 >

この作品をシェア

pagetop