The previous night of the world revolution4~I.D.~
次に、食文化。

毎日のことだけに、これもカルチャーショックが激しかった。

船の中でも、多少シェルドニア料理は嗜んだものの…。

実際にシェルドニア王国の食料品店を訪れると、結構、戸惑った。




「…ルリシヤ。何なんだ、これは…」

「どれどれ…。シェルドニア鹿の脳みその燻製だそうだ」

…。

「…じゃあ、こっちは?」

「えーと…。シェルドニアセミの塩漬けだ」

…。

「…それならこっちはどうだ」

「これは…シェルドニアミミズのペーストだな」

「…」

…何なんだ。この食欲をそそられない食材達は。

どれも買う気が起きないぞ。

俺はゲテモノ食材の前に立ち尽くしているにも関わらず。

シェルドニア人らしいおばさんは、俺の横からミミズペーストをひょいひょい、と二袋もカゴに入れ、平然と立ち去っていった。

…あのおばさん、ミミズ食うのか…。それも二袋…。

恐るべき、食文化の違い。

俺には、とてもそんな勇気が出ないよ。

無論、このミミズやらセミでルレイアが帰ってくるのなら、風呂桶一杯でも食べるが。

「そう言うな、ルルシー先輩。見た目は確かにアレだが、食べてみると意外と美味いかもしれないぞ?」

「そりゃそうかもしれないけどさ…。口に入れるまでに抵抗があるだろ…」

内臓系や昆虫系って、最初に食べるまでに勇気要るよな。

今までまともに食べたことないから、余計に辛いよ。

「そうか…。なら加工食品はやめて、生の食材を買おうか」

「あぁ…」

加工食品売り場を移動して、精肉コーナーに向かう。

ルティス帝国では、精肉コーナーと言えば、切り分けられてパック詰めにされ、値段の札がつけられたものが冷蔵されているが…。

「…!?」

シェルドニア王国の食料品店の精肉コーナーは、パック詰めされた肉なんて置いていなかった。

天井から、鹿と羊とイノシシを足して3で割ったような動物が、皮を剥がされて、足を縛られて、憐れな格好で吊るされていた。

一体これは何事だと思ったが、俺以外の誰もが、その光景を異常とは認識しておらず。

当たり前のように、買い物客達はその動物に群がっていた。

どういうことだと思っていたら、先程ミミズペーストを購入したおばさんが、何やら大鉈を持った物騒な店員に何か言っていた。

おいおい、これはあまりに残酷過ぎるだろう、と言っているのかと思ったら。

店員はこくりと頷き、吊るされた鹿の足を、大鉈でゴリゴリと切り分け始めた。

切り分けた肉を秤の上に乗せ、重さを量った後、店員はその肉をビニール袋に入れて口を縛り、おばさんに手渡した。

おばさんはその場で、肉と引き換えに代金を渡していた。

…成程。

シェルドニアの精肉売り場では、こういう肉の販売方法であるらしい。
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