The previous night of the world revolution4~I.D.~
買い物を終え、帰宅する途中。

俺は、いけないと思っていながらも、視界の端に映る「それ」を、目で追っていた。

色々とカルチャーショックはあるが、「それ」は最早…文化の違い、なんて言葉では説明出来ない。

「…ルルシー先輩、あまり見るな」

ルリシヤが、低い声で俺を諌めた。

「…あぁ、分かってる」

この国はおかしい。

異常だ。

ヘールシュミット邸を抜け出して、街を走りながら…俺はそう思った。

食文化の違いや、食料品店の販売方法の違いなんて、大した問題ではない。

「それ」は…もっと凶悪だ。

異常だ。

この国はおかしい。

何故なら、この国には…この街には。

至るところに、真っ白な塔が立っていた。

一見すれば、ただの電信柱だ。

でも…俺達には分かる。

『ホワイト・ドリーム号』で、散々苦しめられた俺達には。

その、一見電信柱に見える無数の柱。

これは、『白亜の塔』だ。

展望台ではないから、上れるようにはなっていないけれど。

その証拠に、塔のてっぺんには、巨大なスピーカーがついていた。

そして、王都では…まるで学校のチャイムのように、朝夕決まった時間に、このスピーカーから独特の音楽が流れた。

『ホワイト・ドリーム号』で、散々聞かされたあの音楽だ。

成程、アシミムがあんなふざけた船を用意出来た理由がこれだ。

この国は、洗脳国家なのだ。

国民を洗脳し、為政者の思うがままに動かすのは…この国では、当然のように行われていることなのだ。

そんな話、小説の中くらいでしか聞かないだろう。

現実で、国家ぐるみで、そんな非人道的な行為が行われるなんて。

有り得ない。そう言ってしまえばそれまで

でも、実際にこの国では、それが行われているのだ。
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