The previous night of the world revolution4~I.D.~
「あんなこと、倫理的に許されるのか?」

王都に乱立するあの塔に、俺は愕然としながらルリシヤに聞いた。

「許されるか許されないかと聞かれたら、それは…人の価値観によって変わるだろう。俺の個人的な意見としては、許せないと思うが…」

「…」

「…でも、この国の為政者は許せるんだろう。国王が許す限り、俺達が許せなかろうが、関係ない」

「…そうだよな」

国王がそれをやるなら、抗う術などない。

国民は当然、あの塔が洗脳塔だとは気づいていないはずだ。

籠の中の鳥は、自分が籠の中にいるとは思わない。

俺がいくら、「お前達は洗脳されているんだ」と訴えても、誰も信じまい。

「でも…国民が気づかなくても、他の国の人間が気づくんじゃないのか?」

こんな非人道的な行為、王が許しても、国際世論は許すまい。

「…どうかな。洗脳されていると言っても…この国の国民は、奴隷扱いされている訳じゃない。ただ逆らわないように仕向けられているだけで」

「…」

それが、この洗脳システムの上手いところだ。

他の国の人間が見ても、一見、洗脳されているようには見えないのだ。シェルドニア国民は。

国民本人も気づいていないのだから、当然とも言えるが。

例えこの国に旅行者が来たとしても、シェルドニア国民に対して行われている洗脳は、俺達が船で受けていたような強引な洗脳ではない。

何年も、何十年もかけて、ゆっくりと浸透していくような…「弱い」洗脳だ。

だからこそ誰も気づかない。旅行客も、一週間や一ヶ月くらいじゃ、洗脳に気づく前に帰ってしまう。

「…第一、洗脳されているという証拠は、何処にもないんだ」

「…そうなんだよな」

それが一番の問題だろう。

洗脳しているだろうと問い詰めたって、いくらでもしらばっくれられるのだ。

国民は気づいていないし、この塔だって、一見すれば電信柱にしか見えない。

洗脳自体も強いものではないから、目で見て変化が分からないのだ。

俺達だって、あの船に乗せられていなかったら、一生気づかないままだっただろう。

シェルドニアの洗脳システムの恐ろしいところだ。

誰も洗脳されていることに気づいてない。だから洗脳している証拠も、何処にもない。

それに。

「…なぁ、ルリシヤ。こんなことは、あまり言いたくないが」

「何だ?」

「…もし国民が洗脳されていることに気づいたとしても…意外と、反対する人は多くないんじゃないかと思う」

もし、自分達が国によって洗脳されていると知っても。

…国民の全てが、この国の異常なシステムに異を唱える訳ではないだろう。
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