The previous night of the world revolution4~I.D.~
「…」

要約文だけでなく、後ろに添付していた全文にまで、じっくりと目を通したアシュトーリアさんは。

ふぅ、と溜め息をついて書類をテーブルに置いた。

皆が、彼女の言葉を待っていた。

「…まず、三人共生きている希望があることを、喜びましょう」

アシュトーリアさんは、静かにそう言った。

そして。

「…それを差し引いても、状況は最悪ね」

「…えぇ」

皆思っていたけど、口には出せなかった。

とてもではないが、言えなかった。

口に出せば…本当に現実になってしまう気がして。

認めない訳にはいかない。

これが、今の現実なのだ。

このメッセージが、敵の罠である可能性をとりあえず横に置いておいて。

これを送ってきた時点で、ルルシーとルリシヤの生存は確認された。

それは、素直に喜ぶべきだ。

また、ルレイアについても…死体が確認された訳ではない。

これも、喜んで良いだろう。

しかし、喜ぶべきなのはこれだけだ。

ルリシヤから送られてきた情報は、彼らにとっても、私達にとっても、絶望的なものだった。

ルレイア達を拐かしたのは、遠い異国の地、シェルドニア王国の貴族、ヘールシュミット家の当主アシミム。

彼女は叔父であるトレギアス家の当主、ミレド・トレギアスに王位を奪われ。

それを取り戻す為に、ルレイア達を利用しようと、『ホワイト・ドリーム号』を使って、ルレイア達を連れていった。

おまけに、驚かされたのは、シェルドニア王国の異常な洗脳システムだ。

本当に、こんなことが現代社会で行われているのかと、私は信じられなかった。

危険のない範囲で、軽くシェルドニアについても調べてみたが。

洗脳の、せの字すら見つけられなかった。

当然だろう。もしこんなことが国外にバレたら、シェルドニア王家はただでは済まない。

「…なーなー、アイ公」

「なぁに?アリューシャ」

アリューシャが、ちょいちょい、と私の服を引っ張ってきた。

「ルレ公達、そのシェルドニアってとこにいんだろ?」

「そうだね」

「じゃあさ、こっそり。こっそりアリューシャ達もシェルドニアに行って、こっそりルレ公達を拐って、こっそり帰っちゃ駄目なの?」

「…うーん…。それが出来たら最高なんだけどね」

ルリシヤがアシミムの目を掻い潜って、ヘルプを送ってきたことがバレてないうちに。

今すぐシェルドニアに飛んで、三人を迎えに行って、見つからないうちに帰ってくれば。

確かに、それで色々解決なんだけど…。

その方法が不可能な理由は、二つある。
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