The previous night of the world revolution4~I.D.~
「まずね、アリューシャ。私達は恐らく、ルティス帝国から出国は出来ても、シェルドニア王国に入国は出来ない。アシミムだって当然、私達の素性は知っているだろうからね」

シェルドニア空港の入国審査官の間では、指名手配犯みたいに、「こいつらお断り」と私達の写真が出回っていることだろう。

まず、通常の渡航手段では無理だ。空港で弾かれる。

それに、例え入国審査を誤魔化せたとしても。

今度は、またシェルドニアから出国しなければならないのだ。

私達はともかく、正式な手段で入国した訳ではないルレイア達は、出国手続きが取れない。

「それに、私達はルレイア達が何処にいるのか分からないんだよ。シェルドニアだって広いんだ。三人を探し出す手段がない。こちらから連絡出来る訳じゃないんだから」

そして、何より。

「…ルレイアの居場所については、ルリシヤ達も分からないんだ。三人の居場所がはっきりしないことには、迎えにも行けない」

「…そっか…」

以上の理由から、迎えに行くことは出来ない。

長い時間をかけてでも、私達もシェルドニアに入り込んで、ルレイア達を探す…という手段も、なくはない。

そうでもしたいくらい、燻っている気持ちもある。それは認める。

だが、実行に移すのは…それはあまりにも短絡的だ。

「…じゃあさ、もう一個言って良い?」

「良いよ。何?」

「このシェルドニアって国、洗脳なんて悪いことしてんだろ?」

「まぁ、そうだね」

マフィアの私達が言うのもなんだけど。

非人道的という観点から言えば、私達にも勝っているだろうね。

「なら、堂々とシェルドニアに文句言ってやれば良いんでね?ルレ公達返せ!洗脳すんな!って」

「…まぁ、こちらは被害者だもんね」

「皆に訴えてやれば良いんだよ。先生こいつめっちゃ悪いことしてます!って」

国家間で「いーけないんだ。先生に言ってやろ!」とは。

間違ってはないんだ。それも手段の一つであるとは思う。

しかし。

「聞き入れられないよ、アリューシャ。私達が今日に至るまで、シェルドニアの洗脳システムに気づかなかったのは何故だと思う?彼らはそれだけ、上手くやってるんだ」

ルリシヤに教えられなきゃ、今も知らなかっただろう。

と言うか、ルリシヤにでも言われなければ、信じもしなかったはずだ。

そんな非現実的なこと、誰が信じるものか。

国ぐるみで、国民を洗脳しているなんて。

箱庭帝国の憲兵局が、秘密裏に化学兵器を造っていた、なんて話とは訳が違う。

現代社会で、別に鎖国されている訳でもない先進国が。

まさか、国民を洗脳することで秩序を保っているなんて。

ルリシヤという、信頼のおける人物から寄せられた情報だからこそ、私も信じられるけど。

ルリシヤやルルシーじゃなかったら、私だって信じなかった。

常識で考えれば、まず信じられないだろう。

「それに、証拠がない。誰々がそう言っていた、じゃ証拠にはならないんだ。洗脳していると主張するなら、その証拠を示さないと、誰も信じない」

「むむ…」

アリューシャは眉間に皺を寄せて唸った。

すると。

「ねぇ、アイズ。私も良い?」

今度は、シュノが手を上げた。
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